教材研究往復書簡

Bartók「子供のために」より「冗談」

(近・現代の課題曲が決まって)


前書き

この書簡集は、私の弟子との書簡集です。

[経緯]を説明すると、私と弟子のかかわりは、彼女がまだ小学4年生頃からの話です。それまで習っていた近所の教室から「ピアノが上手になりたいから。」と言う理由で、私の教室へやって来て、私のレッスンを受けていました。

当初は「音楽の方を専門に勉強したい。」という事で、私のもとで勉強をはじめたのですが、しかし、中学1年生の時に、両親のたっての希望で教育方針を転換し、一般大学を受験するために、音楽の勉強を専門とするのではなく、塾での一般教科の受験勉強をメインとし、教室では普通の趣味組の生徒とすることになりました。

しかし、ご他聞にもれず、本人が高校2年生になったときに、「どうしても音楽大学を受けたい。」「音楽の方に進みたい。」との願いから、再び一般大学の受験勉強を、音楽大学の受験のためのcurriculumに切り替えて勉強しなおし、受験をする事になりました。

音楽大学受験もストレートに合格し、その後、無事に音楽大学に進学卒業し、卒業と同時期に結婚して、地方への転居、育児、子育てに専念していました。

長男が5歳になってある程度手が離れた時に、その地方では大手の音楽教室にピアノの指導者として就職し、生徒達の指導を始めました。

しかし、結婚生活とすぐの子育てによるブランクで、「音楽の感が取り戻せない」と言うことと、彼女の場合には、音楽大学を卒業した後比較的すぐに結婚をしたために、「音楽指導の経験」が充分になく、ピアノの指導に対して、少なからず不安を感じていたので、私に「音楽指導上のアドバイス」を仰いできました。

[補足説明]私の教室には「芦塚メトード」と呼ばれる、特殊な教育のメトードがあります。「音楽を職業とするために」や「生徒指導のためのmanual」等です。そこで、よく一般の人達が勘違いをされてしまう事があります。

それは、「教室で学んだ生徒は『芦塚メトードで学んだ』のであって、『芦塚メトードを学んだ』のではない。」と言う事なのです。

『芦塚メトード』は非常に広範囲のジャンルと従来の既存の教育、音楽教育の概念を覆す、理論によって構成されます。必然的に通常のlessonの中では学ぶ事はとても出来ません。そのために、芦塚メトードを学ぼうとする生徒達は徒弟制度の学び方をします。「江古田詣」という学び方です。そのために芦塚メトードは非常に限られた人しか学ぶ事が出来ません。時間や日にち的に学校や塾のcurriculumと諸にぶつかってしまうからです。また、一般の音楽大学を卒業して芦塚メトードを学ぼうと言う人もいますが、先ほども述べたように、芦塚メトードは従来の教育の概念や音楽教育のメトードを真っ向から覆す理論です。

音楽大学で勉強をしてきた人達にとっては、自分のそれまでの音楽の勉強を、或いは自分自身を真っ向から否定される事に感じてしまうのでしょうね。

私達の考え方は「逆」です。芦塚メトードの本当の意味での良さを理解するためには、従来のトラディショナルな教育も学ばねば、本当の意味で芦塚メトードを理解する事はないのです。

そのために私の教室の先生達は大手の音楽教室のsystemでも、そのままに指導出来るように、色々な教室のsystemをも勉強するのですがネ・・・。

 

教室で育ってきた生徒達は、逆に「一般の音楽大学を卒業してきた人達が、何故、そんな簡単な事も出来ないのか?」と不思議がります。それは、芦塚メトードの通常のcurriculumの中には、一般の人達が出来ないような事を出来るようにするための芦塚メトードのcurriculumが最初から入っているからです。例えば、教室の生徒の殆どが絶対音を持っています。絶対音のカリキュラムで勉強したわけではありませんがね。東京には絶対音を身に付けるだけのための音楽教室があって、遠くは長野や名古屋からでも、毎週子供達が通ってきています。そうして、絶対音感を身につけるための厳しい訓練を何年となくしています。また、音楽の勉強をしている生徒達が音楽に挫折する一番の原因は譜読みです。しかし、教室の生徒達は兎に角、譜読みが早い。譜面を見ただけでも暗譜で演奏する生徒や、譜面を一度も見た事も、lessonで習った事もないのに、曲をちゃんと演奏出来る生徒も多数います。そういった生徒達にとっては、音楽大学の従来型の教育は理解できません。「どうしてそんな簡単な事が音大生は出来ないの?」「音大生って、一応音楽を専門に勉強しているのでしょう?」もっと、極端な生徒は、通常の週一のlessonで、コンクールの全国大会に入賞してしまう生徒もいます。完全な趣味なのに・・です。私は生徒にいつも注意をします。「コンクールなんていうのはねぇ、一生懸命、先生についてレッスンを受けて、寝る間も惜しんで必死に勉強して、やっとコンクールに出れる(!)ようになるもんなんだよ!」「学校の片手間に受けて、全国大会で入賞してもねぇ、意味ないでしょう??」

では、どういう風に教育をすると、何の苦労もなく、ごく普通の生徒が普通の練習の中でそういった事が出来るようになるのでしょうかね。それは芦塚メトードを勉強しないと分からないのですよ。

と言う事で、教室を卒業した彼女の芦塚メトードで学んできた生徒であったから、高校2年からでも音楽大学に入学する事が出来たわけで、決して芦塚メトードを学んできた分けではないという前提をよく理解しておいてください。

 

前書き

私達の教室の中では、先生方に音楽上のアドバイスや教育のアドバイスをする事は、極普通の事で、珍しくもなんともありませんが、この往復書簡による指導というケースが、今までdouble teachers systemのケースと著しく異なり、特筆すべき点は、「教室が東京からは大変な遠隔地であるために、私が一度も生徒との接触がないまま、先生との往復書簡によってのみの指導であり、lessonであると言うことです。

このdouble teachers systemのlessonは、その指導される先生のlessonの風景をビデオに撮影し、先生の質問をlessonvideoに添付して私の元に送ってもらい、それを私がcheckして指導される先生へ、回答するという方式をとっています。

実際にはこの書簡集のキャッチボールのなされた期間は、わづか3年間に過ぎません。しかし、その内容的には六百ページをゆうに超える非常に膨大なもので、色々な作曲家の曲に対してのアドバイスに言及しております。

その中から今回は、「Bartókの『子供のために』から『冗談』」に限っての往復書簡を集めました。

(lectureの曲を一曲だけに限定したわけですが、それでも交わされた書簡をpage数に換算すると38pageにもなります。)

蛇足:

また、教材研究の論文ではありますが、個人情報の保護のために個人を特定できる名前や教室の場所や名前等は当然変更してあります。教室の論文では、女の子の生徒の名前は一律美音子ちゃん(仮名)に統一されています。

もう一人の女の子は響子さん(仮名)です。先生は**さんではなく、「あなた」という呼びかけ(不特定代名詞)で統一しております。

 


教材研究バルトーク(子供のために)より

 

200*/**月/**日(月) 18:54

美音子(仮名)ちゃんのレッスン  

選曲ありがとうございました!

とりあえず、明日がレッスン日なのですが、今日の明日でレッスンの準備は何をすればよいのでしょうか?

とりあえずバルトークとバッハのフランス組曲からのポロネーズは明日から始めて良いとは思うのですが、ポロネーズはまだ譜読みが出来てなくて、どの速度で演奏するのか、曲のimageも何も分からなかったので、明日は絶対教えられません!

どうしたら良いでしょう?

 

本来的には、第一回目のlessonは、生徒に曲のimageを付け、その曲に対してのsymbthyをつけてやることが大切です。子供は自分の好きな曲に対しては実力以上のlevelで仕上げていく事ができます。その反対に嫌いな曲はなかなか練習してくれないし、曲の出来上がりも上手くいかないからです。教材研究が(それまでに私とのlecturelessonが)ちゃんと出来ていれば、その曲の留意点がそのままその曲の面白さになりますので、特徴的なpassageを抜き出して弾いて聞かせてあげることも大切です。そこで、image作りがちゃんと出来れば、その後のレッスンはかなり楽に進行できます。第一回目のlessonの良し悪しが、生徒の曲の達成の良し悪しにも直接繋がっていき、またlessonの時短にもなるのです。

⇒まずは、今回のdouble teachersのレッスンが効率よく出来るように(時短の)ために、幾つか準備する事があります。

その第一点は練習番号付けです。

 

200*/**月/**日(月) 21:13

冗談lecture(Ⅰ)

[練習番号付け]

まず4小節単位に練習番号をつけましょう。

*「あー1」、「あー2」、「あー3」、a tempoの2小節が「あー4」となります。

次のシュトーレンも 同様に、4小節ずつに

*「いー1」、「いー2」、「いー3」、a tempoとフェルマータまでが 「いー4」となります。

*「うー1」が2小節、「うー2」は4小節、rallentandoから前の3小節から5小節が「うー3」、moltoからフェルマータまでの3小節を「うー4」です。最後のa tempo の所から4小節を「うー5」、marcatoから3小節、終止線までが「うー6」です。

楽譜に手書きで書き込んだものを、コピーしておきますので、楽譜上で確認をしてください。

これからは、この練習番号にしたがってlessonを進めますので、先生がコピーするだけではなく、美音子ちゃんの楽譜にもキチンと書き込んでおいてください。

譜例:練習番号

 

[練習番号は父兄や生徒にlesson時間外に付けさせる事]

練習番号付けは、レッスンの時間内で先生が書いたり、練習番号を生徒に写させたりすると、レッスンの時間が完全に1回抜けてしまい、lesson時間の無駄になるので、時間の節約のために先生がlessonを始める前の雑談タイムに、あらかじめ生徒の譜面に、この練習番号を付けるか、他の曲のレッスン中に父兄に写させるようにしてください。

子供にも、よく分かるように(ぱっと見つけ出す事ができるように)大きくしっかりと書くようにしてください。レッスンはその練習番号に基づいてしますので・・。

 

200*/**月/**日(月) 22:14

Re:教材研究バルトーク(子供のために)より 冗談lecture(Ⅰ)          

練習番号付け

了解しました!

 

200*/**月/**日(月) 22:53

教材研究バルトーク(子供のために)より 冗談lecture(Ⅱ)

楽譜についての注意⇒(同じ版の楽譜を使用すること)

(まず、忘れないように先に確認のための伝達をします。課題曲は、コンクールの曲の指定と整合性をとるために指定された楽譜にするようにお願いをしておきましたよネ。楽譜をFAXもしくは郵送をしてください。先日も相手の先生と教室の楽譜の「音」が違っていて、lectureするのに困ってしまいましたので。)

 

では本題に入ります。

[全体の目標テンポとtouch]

Point.1 指導上の留意点:基本事項

快適なtempoの設定

曲全体の目標テンポは126を目指してください。

 

leggieroなtouchについて

左手も右手も非常に軽やかなstaccatoですから、それこそ美音子ちゃんの苦手な打鍵の位置とleggieroなtouchで演奏出来るか否かが勝敗の別れ目になってきます。

 

ゴロニャンの手の型

一つのpassage(phrase)を弾き終わった後に 「ゴロニャンのニャンコの手」が出来ているようにすることがpointです。

いつも私が指導上で注意をしているように、生徒がphraseを弾き終わった後の決めの形が美しくなければ、コンクールには入ることができません。

右手、左手とも一個、一個の音についてもニャンコの手の型の確認をしなければなりません。

 

Point.2 指導上の留意点:練習法

美音子ちゃんは左手の譜読みが弱いので、そこでレッスンの時間をとられてしまってはコンクールまでの仕上がりが間に合わなくなります。

そこで私が皆さん(生徒さん)達にいつも使用している色音譜カードを使います。

色音符カードの使い方、反応と型

あー3の3小節目から4,5小節目の音を除いては、①⑤がシフトして①③⑤(レ、ファ#、ラ)の和音と①②⑤(レ、ソ、ラ)の和音、後は①④⑤(レ、ミ、ラ)の和音の3種類しか出てきません。つまり①と⑤をshiftすれば、後は②(ソ)か④(ミ)か③(ファ#)かの3種類になるわけです。

「3種類の和音しか出てこないんだよ。」と確認してあげて、美音子ちゃんの左手に対するコンプレックスを和らげてあげるのがレッスンを円滑にするためのコツでしょうね。

そこでいつものように塗り絵をして、色による反応の訓練をします。

「赤!」「緑!」「青!」と先生が言った瞬間に左手の和音がぱっと条件反射的に変わるように、です。

少しでも、次の和音の前に、考え躊躇する事があれば、両手になったときにはresponseが遅れてしまいます。留意点は、あくまで、ゲームとして遊びの延長線上でやること。これがお勉強になってしまっては、逆に大変辛い練習を強いる事になってしまうからです。

くれぐれも、老婆心ながら注意をしておきますが、同じ和音が延々と続いている左手のpartを楽譜通りにそのまま延々と練習させることのないようにお願いします。

それはイタズラな時間の浪費(無駄な練習)と、無駄な忍耐力を強いる事になってしまって、子供の精神力を壊す事になりますから!

あくまで3枚の色のついたカードを作って、次のカードを出すまで、その和音を弾き続けて、次のカードを出した瞬間にパッと和音が変われば合格、というゲームをして楽しく遊べば良いのです。

 

「いー3」からも、型は「あ」と全く同じです。「いー3」から少し変わるだけで、そこだけ練習すれば良いのです。

「うー1」から「うー3」までも音型は基本の型と6度の型しか出てきません。種類も3種類です。ですから譜読みに苦しむ事はないでしょう!あくまで「譜読みが簡単だ!」と言う先生のsuggestion(サジェスト)が大切です。それは先生の指導力の問題になります。

 

テキスト ボックス: 譜例:「あー3」Point.3(指使い)

「あー3」の3小節目の左手のラドの和音は24でも良いですが、難しければ12と広げて取ってもかまいません。

次の4小節目からの左手の2-1,25も最初の②は良いと思いますがそこで①に変える必要はないと思います。

ドソの和音はむしろ①⑤の基本形の方が良いと思います。

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