Cembaloの音色
2007/12/07 (金) 2:22
シナリオ訂正中です。
2段のチェンバロは、レジスターを切り替えると何とおりの音色になりますか?
牧野由起子
ことも無げに大変難しい質問をされて、困ってしまいました。
私の自宅である江古田ハイツに鎮座まします Goujon‐modelの2段鍵盤の大型Koncert‐Cembaloです。
このCembaloの若かりし頃には、I Musiciや世界の名だたるbaroque‐ensembleの演奏家達に付き従って、日本国中のKoncert‐Hallを旅して、NHKのテレビでも何度も出演をした豪のものであるCembaloなのです。
年老いて、現役を退いて、次の世代の若者に譲って、余生を送る場所を私の所に求めて来た老犬・・ではなく、老Cembaloなのです。
教室では公開はしていないので、未だピカピカの素晴らしい輝きと音色は未だに健在です。
Goujon‐modelの復刻のCembaloなので、period instrumentsになりますので、registerは当然baroque仕様になって、16feetを含まない8’+8’+4’にLauteの付いた典型的なbaroque仕様の楽器になります。
baroque時代にも16feetを持つCembaloは作られた事はあったようですが、一般的ではありませんでした。
baroque仕様と言ったら、8’8’4’+Lauteが一般的です。
16feetが入って来るのはpedal付きのmodern‐Cembaloからです。
それに加えて、私はあまり好きではないのですが、slide鍵盤に寄るbaroque‐pitch、・・・つまり、415cycleと440cycleのslide機構を備えていますが、これはbaroque時代には無かった、現代の利便性を求めた結果によります。
二段鍵盤のCembaloには下の鍵盤を弾くと上の鍵盤と連動するという(Organ用語なのですが)、Koppelという機能があります。
両側に見えるマルで囲ったノブを両方の手で奥に押すと、上のkeyが下のkeyと連動する事になります。
それをOrganの用語でカプラー、もしくはコッペルといいます。
Organ用語でプレノというのもありますが、それは全部の音栓の音を全部一緒に出すというorchestraではfulltuttiの状態をさします。
ケルンの大聖堂のpipeorganはプレノで演奏すると教会が崩壊するらしいので、プレノは禁止になっています。
それでなくても演奏中にレンガが落ちて来るのでね??
下の鍵盤に付いているノブは鍵盤をslideさせる時に横に移動させるために使用します。
さて、次には肝心要の音色に付いて・・所謂、registerの操作です。
左側に2個のregisterと、右側に1個のregisterがあります。
大切な事は、上の鍵盤と下の鍵盤のどちらに作用するのか??という事です。
音が出る状態にする事を私の場合には「入れて!」と言って、音が出ない状態にする時には、「外して!」というのですが、これはpinを左右に振るだけなので、web-lessonでその説明をするのに、頭が混乱して通じなくなってしまいました。
そんなに難しい事ではないのですが、私が断定的に言わなかった所為なのでしょうかね??
Cembaloはbaroqueの時代でも個人の製作者に寄る家内企業的な工芸品だったので、その操作が製作者毎に、楽器毎に違っていて、その都度、その楽器の操作法を学ばねばならなかったからです。
教室のCembaloではこの2段鍵盤の Goujon‐modelでも、教室の1段のRuckers‐modelでも、pinの操作は演奏者から外側へは、「入れる」動作になり、演奏者側の内側には「外す!」操作になります。
先ずは、この動作を覚える事です。
次は、右側のpinは下鍵盤の8’(8feet)です。標準の大きな音になります。
左側の上側のpinは下鍵盤の4’(4feet)の音になります。
次に左側の下のpinはLauteの音で、下鍵盤の8’の音に掛かります。
上の鍵盤は8’の弱い音なので、それは切る事は出来ません。2段鍵盤なので、切るという利便性が全く無いからです。
後は、その順列組み合わせなのですが、8’8’4’の単独の音の3っつに対して、その組み合わせと、8’がLauteになった場合の組み合わせがあります。
単なる順列組み合わせなので、計算でも出す事が出来るのですが、そろそろ面倒くさくなって来たので、回答はしません。
各自考えて見てください。
次には教室で使用している1段の例です。
このCembaloはJoannes Ruckersの復刻modelなのですが、baroque時代の1段の場合には、通常は8feetと4feetの組み合わせが一般的なのですが、教室ではorchestraのcontinuoのCembaloとして、音量が欲しかったので例外的に8feet+8feetにしています。
もう一つのRuckers‐modelとの決定的な違いは、baroque時代のCembaloは鍵盤の白鍵と黒鍵が逆のように言われていますが、本当のRuckers‐modelでは、現代と同じように、白鍵は白鍵になっていて、黒白は逆転はしていないのです。
一般論ついでに、白鍵を黒鍵にしたのは、貴婦人の白い手を映えさせるために・・と言われているのですが、実際には、黒鍵は黒檀で作られていて、白鍵は象牙だったので、黒鍵の黒檀に比べて、白鍵を多く使用すると費用が膨大なものになったからなのですよ。つまり、財力をひけらかすために白鍵を白鍵にしたのです。
白鍵と黒鍵を入れ替えたのは、費用を安く抑えるタメなのでした。
しかし、それでは余りにも一般的ではないので、敢えて、一般の人達の思い込み通りに、黒白を逆転させています。
1段鍵盤なので、上下の鍵盤の奏き分けは無いので、8feet+8feetとLaute+8の組み合わせだけになります。
だから、音色の合計は5種類になりますよね??
簡単ですよね??
殆ど、8’8’の違いは分かり難いのですが、一応、強いforteの8feetと、弱い優しい8’の組み合わせになっています。
「入れる」と「外す」の操作は、 Goujon‐modelと一緒なので、非常に簡単ですよね??
旧稿の残骸です。renewalしたので削除しようかとも思っていたのですが、この文章も追記のたたき台にでもしようかな??と思って、残しておく事にしました。
2007/12/06 (木) 16:48
音列のお話
Cembaloでは、例えば2段鍵盤、2列とかいう言い方をよくする事があります。それぞれの弦はレジスターと呼ばれる小さなレバー(後世では、ペダル)によって弦を切り替えます。
一段の鍵盤には一列か、二列の弦が割り当てられます。
チェンバロにはスピネットと呼ばれる小型のチェンバロと、一段の鍵盤を持つチェンバロ、二段の鍵盤を持つ大型チェンバロなどがあります。
スピネット
勿論、スピネットは小型が売りなので、一段鍵盤で一列が基本ですが、一段鍵盤で二列のスピネットもあります。
でも、それではspinetである意味がありませんよね??
小型の1段のCembaloでも良いハズです。
音列は標準の音の高さが出るものを8′(8フィートと呼びます。)標準よりもオクターブ高い音が出る音列を4′(4フィート)と呼びます。
原則としては、バロック時代の二段鍵盤のチェンバロは8+8+4の音列です。
蛇足ですが、どんな楽器でも、低音へ音を伸ばしていくのは楽器が等比級数的に大型化していくので、技術的にも材木の張力の関係でも困難が伴います。
バロック時代のチェンバロが16フィートを用いる事は長年の弦の張力に耐えて、安定したバランスを保つ事は、まだ不可能でした。(それは、工業的な技術力が付いて、鋳鉄の技術が開発されて、弦の強い張力に耐えられる台座が作られるようになって来てからのお話になります。)
と言う事で、標準のバロックチェンバロでは上一列8フィート、下二列4+8フィートの三列とリュートのregisterになります。
モダン使用のチェンバロでは、上二列の4+8フィートと下鍵盤の8+16フィートにリュートのregisterとなります。
バロック使用の楽器では、一段のチェンバロでも、私達の教室の(ルッカース・モデルの)チェンバロのように一段で8′+8′の音列は珍しく、一般的には、4+8の二列の方が普通です。それもチェンバロの楽器の全長と張力の関係です。
リュート(ラウテ)レジスター
殆どのチェンバロには、リュートというレジスターがあります。リュートという楽器はチェンバロが高価で庶民には手に入らなかった時代のピアノのような楽器として、手軽に演奏されていました。弦の本数がギターよりも圧倒的に多いのと、フレットがチューニング部分で曲げられているために、ぶつぶつした音が出ます。弦の響きを革でダンプして(押さえて)止めることによってリュートのような音を出しています。
クリストフォリ製作1703年
現代のチェンバロ
チェンバロはピアノが世の中に受け入れられるようになって、徐々に衰退していきました。古典派の時代にはもう僅かにモーツアルト等のオペラのレスタティーボに使用されるだけになって、それ以降は偽古典的にオペラなどのレスタティーボに使用される以外には全く音楽の世界から姿を消してしまいました。
チェンバロを再び私達の元に戻したのは、モシュコフスキー門下生であるワンダ・ランドフスカ (1879-1959)の功績が大だと思われます。(モシュコフスキーはピアノの名手としてヨーゼフ・ホフマンやトーマス・ビーチャムなどの名演奏家の門下生を輩出し、勿論モシュコフスキーのエチュードなどの教則本でその名を知らしめています。)
ランドフスカはチェンバロが衰退した原因を@音量が弱くコンサートなどの大ホールに適さない。Aクレッシェンドなどの強弱が出来ない。等々の幾つかの要因を考え出して、ピアノメーカーであるプレイエル社と共同で、ランドフスカチェンバロと呼ばれるモンスターチェンバロを作り上げました。
自然落下によって弦を引っかくではなく、スプリングにより機械的に弦をはじく事によって強い音量を出す・・、とか胴体に鉄骨を用いることによって、強い張力に耐え得るようにする事によっても、より強い音量を出す事が可能となりました。
その他はクレッシェンドやデクレッシェンドなども出来るように改良し、7本のペダルを使用することで曲の途中ですら音色を変化させる事が出来るという、正にお化けチェンバロです。
というわけで現代最大のモンスターチェンバロと呼ばれるものはプレイエル社製のランドフスカチェンバロでしょう。
プレイエル社製のランドフスカ・チェンバロ
ランドフスカの功績によってと、ビバルディの四季などの大ブームによってのバロック音楽ブームによって、チェンバロの良さが再認識されるに至って多くのメーカーによって再びチェンバロが製作されるようになってきました。パイプ・オルガンのように重厚な音を出すために新たに追加された16フィートの音列を持ち強い音量を出すために機械アクションで弦を強い力ではじくための機構とかの、基本的にはランドフスカの考えた改良点を踏襲した4+8+8+16の機械アクションによるチェンバロで、ヘルムート ヴァルヒャの愛用するアンマー社のチェンバロやノイペルト社のモダンチェンバロと呼ばれるものが多数作られました。
ランドフスカが活躍を始めた頃の20世紀の初頭の頃はバロック音楽自体も殆ど知られていなくって、古楽器に対しての考え方も、珍妙なものでした。かの有名なシュバイツアー博士の論文や、アインシュタインの論文も古楽器に対しての考え方は、今日では考えられないぐらい奇妙でおかしいものです。その頃であったとしても、博物館などに行けば、バロック時代の楽器を目にすることは出来たとは思いますが、そういった時代考証をすることもなしに、風聞だけで論文が書かれていて、それが音楽社会の通年とされてきました。
(現に私達の大学時代も、そういったゆがめられたバロックの常識を正しい正当なものとして習ってきたのです。・・・とは言っても、もうそういった考え方が、今日に至っても正統な考え方として、音楽大学などのピアノの先生方は一度定番になってしまった、そういった間違えた古い時代の解釈によるBachなどのバロックの作曲家達の奏法などを、いまだに正しいものとして、音楽大学の生徒達に指導していますが。)
ランドフスカのそういった活動は確かに現代にバロックや古典の再認識をさせるための原動力になってきました。しかし、20世紀も後半に差し掛かって、いろいろなbaroque音楽の名曲が発掘されるにしたがって、現代的に解釈されて演奏されたバロック音楽に対しての疑問も起こってきました。
1960年代になって、レオンハルトやアルノンクール等のチェンバリスト達が緻密な考証を行ってきました。
そして音楽博物館に残っている古楽器が復元され、演奏可能なように復元されたり、或いはその設計図等が世界中のチェンバロ製作者達にコピーされるに伴って、バロックチェンバロの音色や音量だけではなく、バロック時代当時に、その楽器がどのように演奏されていたのか、という楽器の奏法も次第に分かるようになって来ました。
そういった時流に伴って、baroque時代の名人と呼ばれたチェンバロ製作者達のバロックチェンバロが復元され、そのコピーが一般にも販売されるようになって、音量大きくするために失った音色の美しさなどのいろいろな改良点が、逆にそのために古楽器の良さを無くすものとして反省され、最終的にはその大ホールでは届き得ない音量さえ、(バロック・ヴァイオリンなども復元されるようになって、他の楽器との)音量だけではなく、音色のバランスも、バロックバイオリンやビオラ・ダ・ガンバなどとのアンサンブルが、バロックチェンバロでは整合性が取れている(非常に音が溶け合ってバランスが良いという)ことが分かりました。
と言う事で、今日ではもう既にノイペルト社やランドフスカ・モデルのような現代のモンスター・チェンバロではなくって、古楽器を復元したルッカースやグジョンのモデルによるバロック・チェンバロを復元した楽器が音楽界の主流になろうとしています。