音大受験の手引き



1. 音楽大学とは


 音楽大学を受験するには楽器が上手に秦ければ充分である−というのが一般の通説であるように思われます。大学受験に関して専門家であるべき中学高校の先生ですら音楽大学(高校)受験に関しては殆ど何も知らない先生方が多く、音大受験生達が受験勉強がなかなか出来ず困ってしまったことが多々あります。私自身も高校在学中に、進学指導の先生から「音楽大学なんて、小学校から高校までの音楽の勉強をちゃんとやりさえすれば入学できるはずだ。音大といえど、文部省の定めた範囲以上のことは出題出来ないのだから。」などといわれて大変こまったことがありました。その先生はきっと一度も小学校からの教育指導要領を見られたことが無いのだと思います。もし指導要領どうりに音楽教育がなされたとしたら、日本中音楽の専門家と天才だらけになってしまいます。小学4年生では和声学に通じ、5、6年生では薮楽器を秦きこなし、中学生になったら和楽器にも堪能な生徒………これはあくまで理想論にしかすぎません。音楽教育の現状は指導要領とは無関係です。
 幸い、クラスの担任の先生と音楽の先生が二人がかりで進学指導主任を説得してくださったし、担任の先生が非常に音楽に理解があったのでいろいろの配慮をしていただき、なんとか音楽の受験勉強を続ける事が出来て、大学に入学することができました。
 受験に関してはプロであるべき高校の進学指導の先生方ですら音楽学校受験に対しては無知であるのに、まして学校のいろいろな情報が入りにくい一般の父兄にとって、将来子供に音楽学校を受験させるためには子供に何を勉強させたらよいのだろうか、また、そういった情報を手にいれるためには、中学校 高校以外ではだれに相談したらよいのだろうか、といった悩みを持つ方も多いと思いますし、また音楽大学の先生がたや音楽大学学生などに主観的な歪曲された情報を教えられて、どうしてよいのか分からなくなって困まっておられる方々の悩みを現実に聞いたりしますと、せめてほんの少しでも正しい情報を提供できれ、と考え、そういった悩みに答えるために、この手引をつくりました。



音楽大学を受験するためにはその学校の教授についていたはうが有利だと一般的にはいわれていますが、教授は自分の指導した生徒の採点はすることはできませんし、受験の時は受験番号で呼ばれますので受験生の名前が分からないように番号で採点することになっていますのでその大学の教授についたから有利になるということは全くありません。教授はその大学の試験の傾向についてはくわしいかもしれませんが、生徒がどの大学にむいているかは判断することができないし、はかの大学も一緒に受験するときはその大学の傾向を判断できないので逆に不利になります。

以前受験生を指導していたとき友人から「二人の浪人生をあずかってほしい。」とたのみこまれました。A君は武蔵野音楽大学受験生でB君は国立音楽大学受験生でそれぞれ大学の教授に高校時代からついて勉強していました。
私が彼等の大学に落ちた原因を調べてみるとA君は実技はあまりよくないのだが、英語や国語、音楽理論等一般教科が平均してできる。B君は実技のほうはなかなかよいのだが一般教科がまるでだめ。
それでふたりと相談してA君には国立音楽大学を受験させることにしてB君には武蔵野音楽大学を受験させることにしました。それで教授もその段階でべつの教授につくように指示しました。
学校によって専門教科の得点を二倍、三倍にしている大学があるので二人とも自分自身にとって不利な大学を受験していたわけです。もし彼らがそのままその大学の教授についていて、私のところに紹介されてこなかったら、二浪、三浪して、そのまま挫折してしまったでしょう。
たしかに音楽大学を受験可能に教育できる音楽教師は数少ないので、そういった先生について学んでいる生徒の場合は大学の教授につくしかしかたがないとは思います。大学受験のために、有名な音楽大学の教授について、つぶされていったたくさんの子供たちのお話は、また機をあらためて実例を挙げながらお話してみたいと思います。


音大入試は舞台で演奏する発表会などとは違って、小さな教室で手が届くほど近い距離に7人程の先生が座って審査します。ヴァイオリンなどは(コンチェルトやソナタ等を弾くのにも関わらず)伴奏ガ付く所はまれです。音大を受験するには、そういった状況、雰囲気に慣れなければいけないという問題があります。
又、一般大学と違って、音楽の試験は間違えても消しゴムで消すことができません。その為、充分合格できる実力があっても、あがってしまったり、いつもと違うテンポで弾きはじめしまったりして失敗することもある多々あります。
ですからその場の雰囲気に慣れることはとても大切だと思いますが、通常は音大を受験する生徒は音大の先生が直接教えるので、すべり止めを受けさせたり、練習の為に他の大学を受けさせることははとんどありません。自分の大学を受験させ、もし落ちたら留年させれば良いというのが音大の先生の一般的な考え方です。
 当教室の先生の場合は、どの音大にも所属していない為、どこの学校にもしばられずに受験させることができるという利点があります。試験の雰囲気に慣れることにも充分配慮して受験に臨むようにさせています。
 音大受験を難しくしている原因がもう一つあります。それは、一般大学の受験のように、同じランクの大学を何校か受けるということは音大の場合できないように処置されるということです。受験日は毎年各音大の学長会(談合)で同レベルの学校を同じ日にダブらせるように定めれるのです。その為、どの大学とどの大学を受けることが可能かは、大学受験日の発表の日まで分かりません。
 受験日によって受験することの出来る学校が自動的に決まってしまいます。つまり、第2志望、第3志望の学校は本人の希望通りに、自由に選択することはできないということです。
 もちろん受験課題曲を知ることができるのは受験日の発表の後になってしまうということは言うまでもありません。その為、それ以降のわずか半年(学校によっては2〜3ヶ月)の間しか課題曲を練習することはできないのです。このことが、すべり止めの学校を受験することをより困難にしています。


 一般大学や高校を試験の成績で格づけする学校別ランク表のようなものがありまして、それによると音楽大学はかなり低くランクされています。以前受験相談をうけたとき、「一般大学は受験させるのが大変だから学校の先生と相談してより楽な音楽大学を受験させたいのですが。」というふうに、父兄にいわれました。確かに音楽大学は一般大学に比べて低い位置にランクされています。しかし、だから受験が楽だろうというのは大変な誤りだといえます。それには なぜ音楽大学が低くランクされたか、その理由を知る必要があります。
 一般大学と音楽大学をランクづけしようとするとき、音楽大学と一般大学を比較する対象が全くありません。音楽大学受験に必要な一般教科は、ほとんどの音楽大学が英語と国語のみを実施し、しかも参考程度の評価しかなされません。高い配点をなされるのは専門の教科のみなのです。音楽大学が専門大学であり、大変特殊で専門的知識を必要とするにもかかわらず一般大学との比較はわずか二科目の、しかも参考程度の英語と国語でなされるのですからたまったものではありません。
 また芸大など一部の国、公立大学などでは共通一次試験がありますが、その評価は単に参考程度にとどまります。


2音楽大学の専門教科
 では次に音楽大学での専門教科にはどのようなものがあるのかをお話しましょう。一般的には音楽大学にはピアノならピアノだけひければ入学できるように思われていますが、現実では中学や高校で学ぶ教科と、保々同じ数の専門の教科があり、それを勉強しなければ受験することができません。以下に音楽大学受験に必要なそれらの専門科目を御紹介してみましょう。
       音楽大学受験に必要な専門教科
@ 聴音

聴音とは、ピアノで演奏されたメロディーなどを、楽譜に書き取る技術
のことです。学校によって出題される聴音の形態は異なります。
以下にその実例を挙げます。
 

旋律と伴奏型(’98年度国立音楽大学)



記憶の問題


二声体(’96年度宮城学院女子大学)








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