夢
(マリア観音)
両側から入江のように切り込んだ小さな二つの山並が続いていて、真ん中の小さな畑には、まだ作物の植えられていない黒い盛土が露出している。
右手の方には山裾に這うようにして入江の中心に向かって白い道が続いている。
道沿いにはかなり大きめの二階屋の細長い日本家屋が六軒程続いて立っている。
所謂、陶器の里である。
それぞれの家の真ん中には、古びた陶土の土壌で真っ白くよごれたテーブルが置かれていた。
観光客の楽焼用である。
私達はゆっくりと、奥の方の家から一軒ずつ、見て回った。
山並みは六軒の家の真ん中あたりできれていた。そして家と家の間に、裏山へ至る道があった。
山並みは切っ先の所だけ切り立っていた。雑木の間に見える岩の中腹にへばりつくように、もう色禄せた朱色の回廊が見え隠れしている。
(青の洞門で見た五官羅漠の寺院のリフレインであろうか。)
回廊の急な勾配を上り詰めると、山の裏側は千年杉の巨木が参道の両側にそそり立つ昼なお暗い深山である。
荘厳な寺院の巨大な山門が、見る人を威圧している。
山門の手前の右手の方に、雑木に囲まれて異様に暗い一角がある。
その入口には両側にはコウモリの羽をもったグリフォンがちようど狛犬を配置したように鎮座している。
中に入っていくと小さな堂がある。
堂の扉に打ちつけられている金網越しに中を覗くと、西洋の妖怪たちか、それとも魑魅魍魎たちか分からないが、ギュスターフ・モローの絵画に出てくるような、小さな真っ黒な化け物たちが無数に置かれている。
真ん中あたりに異様に白くぼやけているものがあった。
目を凝らしてよく見ると約80センチぐらいの観音像である。マリア観音であろうか。
微笑みを浮かべた目鼻だちの整った、現代の少女を思わせるふっくらした顔だちは、西洋人の彫りの深ささえイメージさせ、恋人を前にした少女そのものの微笑みである。
少しカールしたような短い髪も、現代の少女そのままである。
上半身は裸で可愛らしい乳房を持っている。下半身には薄絹の裳を纏っているのであろうか。象牙でもない、大理石でもない乳白色の色は、少女の透き通るような肌の色を思わせ、妙になまめかしい。