ホーム教室のIちゃんは、発表会で自分の思ったような演奏が出来ませんでした。
演奏が終わって舞台袖で
「あと2週間あったらちゃんと弾けたのに。」と、泣いていました。
その話を聞いた芦塚先生は、後日Iちゃんのワン・レッスンのときに、Iちゃんに次のようなアドバイスをしました。

(注:ホーム教室というのは、芦塚音楽研究所の直接の教室の生徒ではなく、教室に関わっている先生の生徒で、発表会等にも、教室の生徒と一緒に参加している生徒の話です。まあ、そんな事は、どうでも良い事なのですが、一応、税金は教室には掛かって来らないので、一般的には部外の生徒になります。)

 

先生とIちゃんの会話

Iちゃんは、お家で、お母さんのお買い物をお手伝いすることはあるの?

「はい、たまには」

 じゃあ例えば、お母さんに『Iちゃん、夕食を作るからキャベツ買ってきて。』と頼まれたとするね。
それでお腹がすいていたIちゃんは急いでキャベツを買いに駅の近くのスーパーまで買いに行ってきたんだよ。

やっと家にたどりつくと、今度はお母さんが
『牛乳を頼むのを忘れていたわ。急いで買って来てちょうだい!』と言いました。

 牛乳は反対側のもっと遠いお店の方が安くておいしいので、そこまで全力疾走で買いに行くことにしました。

 やっと家に帰ってくると、今度は
「ごめんね!小麦粉も無かったみたい。悪いけど急いで小麦粉を買いに行ってくれる?」と言われました。

・・・とまあ、こんなふうに何回もお買い物に行かなくちゃならなかったとする。
そしたら疲れちゃうし、いつまでたっても夕飯はできてなくてお腹がすくし・・・
困るよね。
そういうときは本当はどうしたらいいのかな?

「お母さんが、買うものをよく調べてから私に頼めばいいのに・・・??」

そうだよね。
何を作るか、料理が決まったら、次にはお母さんは何をすればいいのかな?

「う・・・・ん。あっ、そうだ!何が無いのか、野菜籠や冷蔵庫のチェック。」

そうだね!
そうすれば
Iちゃんは、色々なお店に何度も買い物に行かないで済むはずだよね。
お母さんは無くなった調味料など、無くなる前にホワイトボードなどに書いておくようにする。

それからIちゃんは買い忘れなどをして、もう一度買い物に行かなくてもいいように、メモに、お店別に買うものを書き出して、そのお店に行くのは1回ですむように道順を調べる。
お店の場所も、あちこち行ったり来たりしなくていいように考えて、なるべく最短コースでまわれるようにするんだよ。
分かったかな?
そういう風にお買い物、出来るかな?

「ハイ、出来ます。」



話の横

芦塚先生の先生である、Pringsheim先生の先生で、大、大、大作曲家であるマーラーという人の有名な作品に「子供の不思議な角笛」という作品がありますが、マーラー好みの、このアイロニカルな歌詞は、上記の「時短」のお話と全く同じthemaなのです。
忘れ物をするのが、癖の人達がいます。
私はブラック・ホールと呼んでいるのですが、その人達の癖は、「時短」のために、後で、一括して整理しよう・・という事です。
だけど、それが「時短」にはならないのからですよ!!
そして、常に物を探しています。
仕事が終わったら、勉強が終わったらその場で、規定の位置に戻せば良いだけなのですが、毎日、直し場所が変わってしまって、周りの人達も、毎回探しています。
カッター何処置いた??とか、・・限がありません。

反対に、芦塚先生は今体調不良なので、二駅先の池袋にすら、2ヶ月に1回、3ヶ月に一回しか行けません。
だから、芦塚先生は、池袋周りというmemo帳に買うもののリストを作っていて、体調の許す限り、そのmemo帳を消して行きます。
「ビック・カメラに行くついでに、髭剃りの修理出して来てよ!」と先生達に頼んでいるのですが、半年も経つのに、未だに修理には持って行って来れてはいません。
その間、何度、ビック・カメラに買い物に行ったのかは、定かではありませんが。
兎に角、池袋は、誰かしら、毎日通っているのですがね。
浮世の生活なんて、そんな、もんですよ!!

   

浮世の生活

「お母さん、お母さん、おなかがすいた。パンをくれないと、死んでしまう。」
「子供よ、お待ち!あしたのあさ、稲を刈りましょう。」
そして稲の収穫が終わったとき、子供はなおも呼び続けた。
「お母さん、お母さん、おなかがすいた。パンをくれないと、死んでしまう。」「子供よ、お待ち!あした稲をたたいて、穀を集めよう。」
そして麦穀が集められたとき、子供はなおも呼び続けた。お母さん、お母さん、おなかがすいた。パンをくれないと、死んでしまう。」「子供よ、お待ち!あしたはパンを焼こう。」そしてパンが出来上がったとき、子供は死の床に横たわっていた。

マーラーの、シニカルな一面がよく現れた名曲です。詩はドイツ民謡集から採られています。

芦塚先生のお話の続き

ところで、どうしてIちゃんにお買い物のお話をしたか、分かるかな?

「う・・・ん、あんまり・・」

じつはね、お買い物が上手になることと、楽器の練習が上手になることは、同じことなんだよ。

「え・・!」

Iちゃんはどうして発表会の曲を仕上げるのに2週間足りなかったか、それを考えて見よう。

普通、ピアノの先生にレッスンを受けるとすると、最初に譜読みをするでしょ??
・・で、レッスンにもっていく。そしたら指づかいを直されて今度は指づかいを練習する。
次にスキップ練習を2週間くらいやって、だいたいできたら、今度は強弱をつける練習をして、それから暗譜をして・・・・・・。
無駄な買い物のようにすごく時間がかかるよね。
だから効率よくお買い物をするように、最初から指づかいや強弱を暗譜しながら譜読みして、ついでにスキップ練習も暗譜でやってしまえばいい。
そしたら発表会までにいっぱい時間があまるでしょ?
練習っていうのはそういうふうにやるんだよ。
でもまあ、小さい子供の場合や、そのやり方が身についてない場合、いきなり曲の全部をそのように練習するのは無理だろうから、少しずつやっていくといいんだよ。
こうね。
何小節ずつだったらそういう練習が無理なく出来るかな?
2小節?4小節?
実際にやってみよう!

そう言い終わると芦塚先生はレッスンに入りました。

先生へのアドバイス

譜読みの出来不出来が楽器の習い事が続くかどうかの分かれ目となる。

以前、全音の編集長からバイエルの80番90番程度でピアノのお稽古を止める人(子供)の90%以上が譜読み(読譜力の無さ)が挫折の原因だと聞きました。譜読みは、本来的にはバイエルの早い段階でマスター出来ていなければならない。しかし私たちの教室でも、最初から教室で音楽(楽器)を習い始めた人は意外と少なく、他の教室である程度勉強して、その後途中から教室に入会した人の方が多いために、譜読みのグレードと曲目のグレードが合っていない人が大半である。そういった人の為には、正しい譜読みの手順だけでなく、意識(譜読みとは何か。譜読みの重要性など)を持たせることが重要である。

ピアノの先生は、ともすれば曲がある程度弾けるようになると合格にしがちであるが、最初の指導で、水準を作るということが大切である。
ノン・ミスで弾けたか。
例えば、十回のうち何回ノン・ミスで弾けたか。
ミスをしないくせをつけるということは、曲が短い初期の間だからこそ可能なのである。中級や上級者になって、一回弾き通すと、十分以上かかるような曲ではそれを正しく通そうとすると、とても(子供の体力や集中力的に)またレッスン時間との兼ね合いにおいてもとても困難である。
暗譜は完璧か?
いつも私が言うように、「暗譜は習慣である。」
レッスンでいつも暗譜する癖がつくと、暗譜できるまでの回数が極端に少なくなる。私の体験でいうと、バイエルの段階で暗譜でレッスンを受けていたので、チェルニー30番や40番を勉強していたとき、一回初見で通すだけで、完全に暗譜で弾けるようになっていた。しかし先生が変わって、受験のため、曲を暗譜しないで(譜面を常に見た状態で)レッスンを受けていたら、(一度身についた能力ではあったのだが、)一瞬にして暗譜ができなくなってしまった。しかし、人生と同じで、悪習は一度身につくと中々治すことができない。すっかり暗譜が苦手になってしまった。(本当はそこから、暗譜のメトードが生まれるのだが、その話はまたの機会にします。)