教科書ソナタ
M.Clmenti
sonatine Op.36Nr.1 sonatinealbum1巻 第7番
私達の教室では、比較的初歩のバイエルの段階から、楽典や音楽の形式等の基礎知識を、楽器のレッスンの中に取り入れて指導している。
しかし、余所の教室から変わって来た生徒が、初めて教室の先生のブルグミュラーやソナチネの指導を受けて、そういった曲を既に習っているのにもかかわらず、全くそういった基礎知識を初めて習った、「そういった事はlessonで先生から聞いた事がない。」と言っていた!
「それは大変だ!」という事で、応急処置的にこのページをアップする事にする。
まづ、Burgmullerから、sonatine albumのlevelに達した生徒は、sonatineの第曲目として、ソナチネ・アルバムの1巻の第7番、ClmentiのOp36 Nr.1を課題に貰う。
この曲は、通常、一般的には世界で1番短いソナタと言われている。
但し、「短い…」 という意味が、小節の数であるとすれば、むしろBeethovenのG Durの
しかし、BeethovenのG Durは、曲としては可愛らしくて、指導的に考えても、とても素晴らしい曲なのだが、楽典上の指導教材的には教科書的な作品ではない。
指導教材としての教本は、幾つかの目的によって分類される。
ヴァイオリンのスチューデント・コンチェルトは、学習者の勉強のためを目的として作曲されている。
指導用の教材というジャンルは、演奏技術を習得するための技術的要素が多く取り上げられた作品が多いし、作曲する作曲家も、演奏家であるケースが多い。
しかし、それとはまた違って、多くの有名な作曲家達は、教科書inventionや教科書フーガ、教科書ソナタと呼ばれるジャンルの作品を数多く作っている。
誰でも、知っている例を挙げるとすれば、バッハのinventionの1番目の曲やsinfoniaの1番目の曲は、そのジャンルの作曲法を説明するために、サンプルの教材として作曲された、作曲技法の学習教材となっている。Bachは平均律等の作品も、その1番は常に教科書として、サンプル作品として作曲している。つまりそのZirkus(曲集)の全体のconceptを表す作品として、作曲しているのだ。
また、ベートーベンやモーツァルトなどの数多くの作曲家が学習したフックスの教科書フーガも有名である。
この一見簡単そうに見える、sonatine Op.36Nr.1は、Clmentiがソナタの構造式の解説のために作った、ミニマムに凝縮されたソナタ形式の作品であり、Clmentiの作曲学上の、緻密で、しかも非常に優れた作曲技術を持って制作された作品であり、そのために、この曲の構造式を生徒達に説明するには、指導者の高度な作曲に対しての知識を要する作品でもある。
ClmentiやHaydnが作り上げた、ソナタ形式の構造分析は、Motivが如何に機能的に活用されているか、という点をどこまで、正確に判断、解釈出来るか、という点に集約出来る。
という事で、この曲に対しての簡単な解説を試みよう。
譜例:1
1楽章の第一主題はハ長調のドミソの主和音の中に収まるということと、ミ、ドの3度が効果的に、実に機能的に使用されているということを踏まえて、覚えておかなければならない。
つまり、このドー、 ミ、ド のミ、ド3度は、その後のありとあらゆる場所に於いて、効果的に使用されるのだ。
そのテクニックは素晴らしいの一言に尽きる。
また、何気ない、2小節目の経過句に繋がるソとソのoctaveの跳躍は、当時の慣習的には、非常に例外的な使用なのだが、それが第二主題として効果的に印象的に使用されている。
譜例:2
また、4小節目では右手のscaleと左手のscaleが結合して、レからド迄のoctave+2度のscaleになっているが、8小節目から9小節目の頭の音もoctave+2度と2小節目に登場した、octaveの動きになっている。
更に、4小節目の5度のscaleはそのまま、8小節目の開始音がソで、9小節目の開始音がラという風に、12小節目まで、つまりソからレの5度のscaleをしながら、Sequenzをしている。
勿論、左手のbassも10小節目から14小節目迄、5度のscaleをしている。
8小節目から、15小節目迄の、小節の頭の音の動き(非常に大きな5度のscale)
右手はソからレまで、左手は10小節目からソからレ迄の音階進行をする。
譜例:
このpassageは大きな追っかけっ子になっているという事である。
譜例:3
この同じpassageは後半、再現部の31小節目から最後の小節迄、同じ動きが繰り返される。
3小節目、4小節目のscaleの動きから、非和声音を取ると・・・・
譜例:4
この型はそのまま、展開部の17小節目の4拍目のauftaktから118,19小節目にc mollとなって表れ、20小節目からは拡大された型で左手に現れる。
譜例:5
逆にこのthemaが縮小された形が6小節目の4拍目のauftaktから現れる。
譜例:6
この動きを和音としての形に還元すると、次のようになる。
譜例:7
そして、その和音としての形は、30小節目の右手にそのまま使用されている。
譜例:8
この説明はsonate形式の説明ではない。
あくまでthemaのMotivが如何に有効に分析的に活用されているかの説明である。
sonate形式の説明はすこぶる簡単である。
まづ基本は大きくABAの構造を取る。勿論、Codaがあったとしても、である。
私は形式を説明する時に、3段論法や五言絶句の説明をする。
Aの部分は提示部という。
Bを展開部といい、
繰り返されるAを再現部という。
この言い方は人によっても違うので、それはその都度変更すれば良いが、基本の考え方は同じである。流派が違えば、言い方が代わるというだけのことだ。
Aの提示部であるが、第一themaAが2回反復されて、第一themaBの主題に移行するという考え方が一般的である。そういったFormを私達はbogen formと呼んでいる。1小節のAと1小節のAに分割されない2小節のBの形式である。
譜例:9
5小節目からは展開発展をしながら第二themaの調である属調GDurへの移行をする。
この時に、「譜例:3」 で説明したように、小さなscaleのMotivを繰り返しながら、小節単位に反行形の拡大型でMotiv「C」を演奏するのである。
しかも、その開始音は右手が8小節目であり、左手は2小節遅れて10小節目からMotiv「C」を開始する。12小節目は、いまだ、Motiv「C」の途中ではあるが、終止句、所謂、kadenzとなっている。
という事で、一部の提示部が終了する。
次はBの展開部である。
開始は同主短調であるc mollから開始する。ThemaAがお定まりで、2回繰り返される。bogen formによる再現である。当然、bogen form後半のBの主題は、先に述べた如くに、経過音の非和声音を省いた、譜例:4の実際のthema Bで展開される。「譜例:5参照」
20,21小節目の右手のAlbertiのGと左手の保続音のGは、人によってはorgelpunkt(オルゲル・プンクトオルガン点)と呼ぶ人もいる。ちょっと入も出も、短すぎるので無理があるかな?
24小節目からが、再現部となるのだが、曲がみじかいので、再現部はoctave下で再現される。
28小節目はthemaAがひっくり返されて、展開される。31小節目からは、定形の第二主題の再現で、型通りに主調(元の調)で再現される。
35小節目迄は、型通りなのだが、36小節目からは、kleinigkeitの変更がなされていて、第二themaのBの反行型、37小節目は、7小節目のブロークン・コードが半拍連れた型になっている。それなのに、左手の動きは定型通りである。そこは流石、である。
U楽章の構造式
この曲は三部形式で書かれている、と言われている。
この曲が3部形式だとすると、かなり歪な形の3部形式になる。
では、各部分を対比させて見てみよう。
譜例:10
つまり、この曲は小節として、8小節、10小節、8小節と分けると、すこぶる、割り振りが良いのであるが、残念ながら、最初の段落は12小節で女性終止をしている。だから、そこまでが、1部だと考えた方が妥当である。そうすると、2小節と、1小節+1拍が前の小節のrefrainで、纏めのStollenが次の2拍目の裏から次の小節の2,3拍、またrefrainされて、2拍目の裏から、次の小節の1、2拍でrepriseのイントロのpassageに繋がる。ようするに、中間部は僅かに6小節しかないのだ。そして、repriseであるが、譜例:10の比較譜でも良く分かるように、いたる所の小節が省略されていて、repriseの小節の正味の数は8小節しかない。
だから、纏めると、
A12小節
B6小節
A′8小節 という歪な形の3部形式である。
T楽章やV楽章が短いので、U楽章だけを、12小節単位の正式な3部形式を持ってくると、U楽章だけが36小節となり、とてもU楽章だけが重くなりすぎる。
小節数は、T楽章やV楽章と変わらないかもしれないが、tempoが遅いので、正規の3部形式を持ってくると、演奏時間は、T楽章の倍以上の長さになってしまう。
だからといって、8小節の3部では、曲想的にお粗末になってしまうだろう。
という分けで、こういった場合のHaydnやMozartもよく使う技法なのだが、なるべく曲の内容は削らないで、演奏時間だけを短くして、縮めるための特殊な技法なのだが、その場合には、audienceが曲の形式が歪な事を感じさせないように、あたかも、8小節、10小節、8小節のバランスの良い理想的な3部形式に見えるように、上手に錯覚を利用して作曲されているのである。
前後の楽章に対して、第二楽章が長くなり過ぎて、sonatineとしての、全体のバランスが崩れるのを防ぐための、優れた作曲家の常套手段である。
V楽章
昔々私が持っていた、楽譜にはこの曲はrondoと書いてあったように記憶している。
(フランス語ではRondeau(ロンドー)と伸ばすのかな??)
私が子供の頃には、小学校や中学校では、rondoは輪になって踊る、とても速い速度の曲と習った。という事で、rondo形式は単純(小)ロンド、と大rondoがあるとも習った覚えがある。
単純(小)rondoは、ABACAの形式で、大rondoはABACABAの形式を持つ。
大rondoもさらに、大規模になると、ABA-CDC-ABA-Codaを持つ物も現れてくる。
こうなると舞曲の範疇ではないよね。
舞曲なら、当然tempoやrhythmが問題になるはずなのだが、その話もない。
拍子も2拍子系なのか、3拍子系なのか、よく分からない。調べれば調べる程、深みに嵌って分からなくなってくる。こればっかりはbaroquedanceを調べてもよく分からない。
歴史も古く、中世、ルネサンス時代からrondoは存在したらしい。Baroquedanceはそれでも新しいLullyやCouperinの作品で見ることが出来る。
本来はRondeauというのは、中世の詩の形式から来ているそうだ。
詩の韻律の事らしい。
とどのつまりは、形式の話だけで、後の事はよう分からんという事らしい。
話をClmentiのV楽章に戻して、構造を分析すると、
最初のthemaがA=(a+a’)の4小節+4小節の8小節という事
次が困った事にまたAでpがfになっただけの、kleinigkeitの変化である。
当然、同じ8小節
次のBの8小節はやはり定石通りのB=(b+b’)
それで、その次の4小節は、新しいmelodieに、b’の後半のmelodieがくっついた形と繰り返される新しい、前半のpassageに繋ぎの2小節+2小節がまた合体して伸びたような型をとっている。
文字で書くと、非常に分かりにくいのだけど、譜例を見ると一目瞭然である。
常に2小節は同じで、次の2小節は新しくなっているのだが、その場所が毎回変化する。
それが単純なVariationをより複雑なものにしている。
つまり、1と2は、前半の2小節が同じで後半の2小節が変化する。
2と3は、後半の2小節が同じである。
b+b’=4小節, c+c’=4小節 となる。
譜例:
3と4は、前半の1小節が同じで、4の最後の小節は、直ぐに移行樂節に入っている。
譜例:譜例は最後の小節から移行楽節です。
(所謂、つなぎよ!つなぎ!)
その後は定石通りにthemaA, A’がrepriseされる。
そこ迄は何の問題もないが、変った事に、その後、更に、Bがrepriseされるのであるが、上記の譜例を使って説明すると、Bは1番から、2番を省略して、3番に進む。
しかし、省略したことは、転調楽節を飛ばしたという事なので、(というか、2番がその転調楽節なので)3番は主調のハ長調でrepriseされる事になる。
2,3が2回繰り返されて、最後のCodaの5小節に入る。
Bから、themaのreprise迄は、つなぎのpassageも入れて18小節なのだが、repriseの後で、繰り返される、Bは4小節省略されて、更につなぎの2小節もないので、6小節省略されているのだが、最後に4小節のCodaが入って来るので、都合、20小節となって、完璧なbalanceをとっている。
このV楽章の構造式を纏めると、
A(8小節)+A‘(8小節)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・都合、16小節
B(b+b’の8小節)+C(c+c‘)の8小節+つなぎの小節(2小節)・・・・・18小節
RepriseのA+A’・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16小節
(b+c”)4小節+4小節と(b+c”)4小節+4小節・・・・・・・・・・・・・・・・・16小節
Coda4小節・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4小節
というbalanceをとっています。
以上が簡単な構造式のお勉強でした。
このPageもhomepagebuilderのtroubleでぶっ飛んでしまって、古いdataから復元させたものです。不本意なのですが、最終稿が見当たらないので致し方ありません。これで取り敢えずは良しとしておきます。2019年3月11日