l 芦塚先生の問いかけから
オケリハーサルを1週間後にせまったオケ練習の日にでした。芦塚先生が、ディッタースドルフのオケ練習でスコアを見ながらチェンバロのパートをすらすらと弾きました。そして、『簡単だよ。おーい、だれかスコアでチェンバロを弾ける人はいないか?』という問いかけからはじまりました。
実は、本日2部の17番に演奏しますディッタースドルフ作曲ヴァイオリンコンチェルトは、出版されていた楽譜にチェンバロ譜がついていなかったので、チェンバロのパートは弾けませんでした。
このようにバロックから古典派の作品で本来チェンバロが入るべきなのに、チェンバロ譜が出版されてないという楽譜がたくさんあります。なぜかというと、オーケストラの楽譜はプロのプレイヤーを対象にして出版されているので、チェンバロのパートは原則として出版されていません。
本来はチェンバロのパートは、作曲者が通奏低音奏法で、(つまりチェロのパートを左手に、右手はスコアから和音を読み取って、)即興で伴奏を演奏したからなのです。
オーケストラのチェンバロのパートは、チェンバロ・コンチェルト以外は、作曲者が最初から書くものではありませんので、チェンバロ譜が付いている楽譜は、そのチェンバロのパートを校訂者がパート譜として作曲をしたものなのです。
ですから、イタリアのリコルディ版等も、スコアーには、実に下手なチェンバロ譜が印刷されていて、パート譜は全く別人のアレンジの譜面になっているケースが多いようです。
という事で、余りにも酷い場合には、芦塚先生が、堪り兼ねて、チェンバロ譜を作ってから、子供達が演奏しているわけです。(本日の1部、2番のヴィヴァルディ作曲チェロコンチェルトもそうです。)
ディッタースドルフですが、今までも何度か発表会で演奏しましたが、古典派の作品だからチェンバロが入った方が、華やかで良いのですが、芦塚先生の仕事も多様にわたっているので中々その時間を取る事が出来ないので、今回もチェンバロは入れないでという予定の中での芦塚先生の呼び掛けでした。
l だだ、普通になんとなく。
専科生のチェンバロ担当の碧人君、美帆さん、智子さんは、芦塚先生の問いかけに、興味深々の様子でした。では、試みに最初のトゥッティ(オーケストラが、ソロが始まるまで全員で弾く最初の部分)だけ3人で分担して、五線紙に書いてみようと宿題にしました。牧野先生からは、「左手はチェロと同じで、右手はスコアから合う和音を書いてきて」と言っただけでしたが、智子さんは「あー、わかるかも」と言ってましたし、みんな軽く引き受けて帰りました。次のレッスンでそれぞれ提出しました。芦塚先生に見て頂いたら、なかなか上手に出来ていたのです。碧人君は、試験中にもかかわらず約束の期限までにしあげました。美帆さんは、スコアをみて書かなくても弾けるかもといいながら、次々と弾いたので、いつの間にこのような力がついたのかな?と驚きました。和音を組む時、決まりがあります。ホントは和声学という勉強をして覚えていくことなのですが、空3和音とか、重複してはいけない音とか、難しいきまりがあるのですが、弾きながら『ちょっと違うかも、こっちかな』といいながら、耳で正しい和音を決めることができてました。音大で和声を勉強して、チェンバロ科に入って、レッスンを受けても、そういったチェンバロの基礎を学ぶ事は日本ではありません。
それを、だだ、いつものかんじで、なんとなく出来てしまった3人には本当に驚きました。
l 芦塚メトードとは
よく「芦塚メトードとはなんですか?」 と質問されるのですが、一言では説明出来ずに困るのですが、芦塚先生のおっしゃる通りに勉強すると、何故か、「普通に、なんとなくできてしまう」ということを改めて、感じた瞬間でした。
l パソコンもまかせた
碧人君より、「手書きの後、どうするの?」と尋ねられました。
教室の通常の作業では、次の行程は、フィナーレという出版社が使用している楽譜を印刷するソフト、(ノーテーションの専用の音楽ソフト)を使い、パソコンに入力して出版譜と同じように印刷しますが、これがまた、大変な手間なのです。しかし、せっかく3人が頑張っていたので、ノーテーションを仕上げたいと思いましたが、発表会まで時間がありません。東京の事務所にしか、フィナーレの入力のための環境がないので、先生方が入力する時間は全くありませんでした。
そこで、急きょ入力に必要な鍵盤キーボードを、芦塚先生が、わざわざ、Midi楽器の専門店に出向いて、Midiキーボードを買ってきて頂き、3台のパソコンに千葉の教室で入力できるように、finaleのソフトをインスツールするとかの環境をととのえてくださいました。
そして、急きょ日曜日の練習の合間に、3人に芦塚先生から入力のレクチャーをお願いしました。全音や音楽の友社等の音楽の専門の会社が使用するソフトですから、finaleを使いこなせたら、即、仕事として稼げます。
それ程、難しいソフトなのですが、芦塚先生から、簡単に説明しただけで、あと分からなかったら質問するように(先生もレッスン中でしたから)、と言っただけだったそうですが、初めて左手を完成させたのです。
この順応のよさ、要領のよさにもまた驚きました。
l 楽しく、しかも責任を持って協力
その後、今度は3つあるソロの部分の右手を3人に分担して、五線に書いてくる約束になり、パソコンに各自分担して入力して、完成出来るという目途がたちました。入力は、レッスンの前後にしました。分担は決めたのですが、作り上げるという責任感が強く、分担箇所にかかわらず、どんどん先へ進めていたり、間違いを手直ししてあったりして、楽しそうに作成していました。そして、芦塚先生に最終チェックをして頂き、斉藤先生にレイアウトして頂いて、発表会の2週間前に完成しました。3人は、意欲的に取り組み、何より楽しそうでした。さっと準備や後片付けも、指示なしでできます。
l あと本番
本番では、碧人君がチェンバロをひきます。美帆さんと智子さんは、すでにコントラバスで出演が決まっていましたので、本番2週間前にこの大曲のチェンバロを弾くことになったのです。先生達からは、「自分達が作ったわけだから、弾けるでしょう?」とこれまた、この教室ではまるで普通の会話のようですが、これは芦塚メトードならではの話なのです。碧人君がんばって演奏してくださいね。
l 3人からの感想です
3人で分担した時は本当にできるかと少し心配でした。チェンバロの楽譜を作るというのは今回初めてで、でも、家に帰りスコアを見て考えていると、低弦の音に合う和音がわかってきて、だんだんコツもつかめ、スムーズに作ることができました。
その後のパソコンとキーボードでの入力の作業は、レッスンの時間より早く教室に行ったり、レッスンが終わった後に残って進めました。
その作業は、思ったよりも楽しくて、時間はかかったけれどスムーズに進みました。
入力が終わって、先生が「早いじゃん」とほめてくれて嬉しかったです。
完成して、印刷した楽譜をもらった時は、3人で作りあげたという達成感を感じました。実際に演奏するのは自分ではないけれど、自分たちが作った楽譜が発表会で演奏されると思うと、とても嬉しいです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 遠藤美帆
今回、ピアノ組3人でチェンバロ譜の作成をしました。今までオーケストラでチェンバロパートを担当したことはありますが、スコアから音を読み取って和音をつくるというのは初めてでした。また、和音をつくるだけでなく、リアルタイム入力というピアノのキーボードを使ってパソコンに入力する作業もしました。つくった和音をその通りにピアノのキーボードで弾くとパソコンに入力されます。しかし、楽譜通りに弾いたつもりでも、しっかり音をのばしていないと休符が入ってしまったり、1つ1つはっきり音を出さないと、音が抜けてしまったりしてとても時間がかかり、大変でした。完成した時は、嬉しいという気持ちと、やっと終わった、という達成感がありました。なかなかできない経験なので、とても良い勉強になったなと思っています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・岡村智子
今回のチェンバロ譜作成は、左手のパートはチェロの音を写し、その左手に合う音を右手の和音にしました。
特に、譜面作りは大変でした。フィナーレという譜面作りのソフトを使い、約300小
節分の譜面を三人で作りました。
譜面は、オーケストラの譜面を一つに凝縮したような譜面になっています。
三人でとはいえ、個々に音を考える所から譜面を完成させるまで時間がかかりました。
今日は僕が演奏します。是非チェンバロの音も聞いてください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・中島碧人
ピアノコンチェルトの管パートについて
ピアノコンチェルトは、フル・オーケストラなので、当然演奏するには管のパートが必要です。
しかし、アマチュアのオーケストラの奏者では、相当に練習を積み重ねないと、演奏が非常に難しいので、以前、試みに、音楽大学の学生で学校のオケに参加している学生をバイトで雇って、教室の練習にも参加させて、発表会で演奏したことがあります。
残念ながら、教室の練習に真面目に参加したのは、音楽大学のAオケの生徒だけで、Bオケの生徒達は、「子供の練習だから」、となめてしまって練習にも真面目には来ませんでした。Aオケの生徒は「この曲は幾ら練習しても、難しい。」と感想を漏らしながら、真面目に練習に参加していましたが。
当然、本番の演奏は、芦塚先生が幾ら合図を送っても、その合図で入って来れない・・という、惨憺たるものでした。
お金はちゃっかりと、チャント取っていったのだけどね。Aオケの生徒だけ、しきりに「ごめんなさい!」と謝っていたのですが、Bオケの生徒達は、自分達がメチャメチャだったという意識もないようでした。
プロのオーケストラの人達なら兎も角も、MozartやBeethovenのconcertoは、本当は、かなり難しい水準の曲なのですよ。
という事もあって、アマチュアオケや学生オケの人たちに、管のパートを演奏させるのは諦めて、菅のパートを複数のキーボードに分けて、教室の生徒達に演奏させる、と言うアイディアは、Pianoの生徒達の演奏の場が広がるという事から、昔から芦塚先生が提唱されていたのですが、曲によって、最低幾つのキーボードが必要か、とか、PA(音響装置)の問題とか、或いは、管のパートをキーボード用に編曲する手間とかで、中々難しい問題があって、実行には至らず、何時も先生が管のパートを担当していました。
そういった事情もあって、今までは、Mozartのピアノコンチェルトの20番 ニ短調、23番 イ長調、と今回の24番ハ短調を、芦塚先生が管パートをキーボードに直した譜面を使用して、発表会で演奏していました。
所が、今回のモーツアルトのピアノコンチェルト24番の管のパートをキーボードにアレンジした譜面が、紛失して見つかりません。
そこで、芦塚先生の提案で、キーボードのパートを、二人のPianoの生徒に、アレンジの仕方を直接、レクチャーして、本人達がスコアーから直に演奏をする事にしました。
勿論、クラリネットやホルン等の移調楽器も移調のコツを指導して本人達がそれぞれの楽器を分担して演奏しています。今回は教室としては管のパートの楽譜を作らずに、スコアーに自分のパートに色を塗っただけのものを使って演奏しています。専門家がそれを見たらギョッとするような、とてつもなく凄い事をやっているのですが、聴きにいらしたお客さん方は何が凄いのか、聴いているだけでは分かりませんよね・・・・・・。ひょっとして弾いている本人たちもすごいことをやっているとは気づいていないのかも・・・・・?
2018年現在では、生徒にscoreから直接、管のpartを弾かせています。
このCapuzziのKontrabassのconcertoの場合には、oboeとhornの2管編成なのですが、hornが移調楽器で『in D』なので、下の楽器をtransposeで『in D』にして、楽譜通りに演奏しています。
ドの音を弾くと、レの音が出るので、上のKeyboardの、鍵盤の音がそのまま出る楽器と、移調楽器を同時に弾くのは、教室の生徒達のように、絶対音感のある子供達にとっては、寧ろ、至難の技になります。
こういう場合には、絶対音感は無い方が、都合が良いのですよね。