音楽家の卵達がチェンバロという楽器に興味を持ったとして、実際にチェンバロに触れる機会を持てるということはかなり難しいことになるだろう。それからチェンバロの曲を勉強しようと思ったとしたら、チェンバロのレッスンをしている教室は(都心は兎も角として)ほとんど見つけ出せないだろう。せっかくチェンバロという楽器に興味を持ったとしても、実際に何を勉強してよいのか分からない、又何処に相談してよいのかも分からないということで模索しているうちに、いつの間にかチェンバロやバロック音楽に対して、縁遠くなってしまうのが現実のようだ。
幸運にも、チェンバロ科を持っている音楽大学に入学できてしかもチェンバロ科(或いはチェンバロ部)にめでたく入ることが出来たとしても、受けるチェンバロのレッスンとは、バッハやせいぜいロココの作曲家たちの作品を譜面に忠実に演奏するというのがほとんどであろう。
「えっ?!それでは駄目なの?」
残念ながらチェンバロは、ピアノなどと違ってそれでは正しい演奏にはならないのだ。
バロック音楽の殆どの作品は譜面として書かれている音符は大まかな(ラフ・レイアウトのようなもので、)あらすじを書いているに過ぎない。当時の演奏家は自分の趣味に従って、そのあらすじから自分自身の演奏をした。
例えば、ヘンデルのチェンバロ曲でも、装飾を入れて演奏すれば、以下のようになる。
(ヘンデル組曲第七番ト短調サラバンド 生徒作品)
このようなオーナメント(装飾)や即興演奏の技術を学ばねば正しいバロックの演奏は有り得ない。
もう一つ例を見てみよう。
バッハ 前奏曲とフーガ より前奏曲