チェンバロのピッチ フィートのお話

Cembaloおもしろ話

(フィートのお話)

Cembaloは電子オルガンのように、一つのキーで色々なピッチの音を出す事が出来ます。

「pitch」というのは音の高さの意味の事なので、この場合の「pitch」と言う意味はすこぶる紛らわしい事になりますので、少し補足説明をします。
何故、紛らわしいかという事については、例えば、同じ音階(調)でも、音の高さが違う場合、つまり基音のAの音が440サイクルであったり、443サイクルであったり、435サイクルであったりで、同じ調性でも、音の高さが違う場合も、「pitchが違う」と言う言い方をするからです。

今、私が言った『Cembaloは色々なpitchの音を出す事が出来る。』と言う意味は、その意味ではなく、同じ「ド」の音でも、オクターブ上の音を出したり、逆にオクターブ下の音を出したり、すると言う意味のpitchです。このような、場合に於いても同じpitchという言葉が使用されます。

もっと、込み入っているのはpipeorganの場合には、そのkeyの音の
5度上の音や4度上、3度上の音まで出るようになっているレジスターキーまであるのです。






Cembaloは、鍵盤がPianoのように1段しかない場合でも、レジスター(ストップ)と言う、(日本語では音栓という訳を当てているようですが)ノブのの操作によって、もう一つの弦を弾いて、実際のキーの高さの音よりもoctave上の音を出すことが出来るCembaloも一般的にあります。

そういった音の高さ(音階、若しくは弦の列)の事を、その物ズバリ、「列」という言い方をします。

1段鍵盤で一つのピッチしか出ないものは「1列」と言います。

通常、一段鍵盤でも、2列の音(2列の弦)を持っている場合には、もう一つの列は、同じピッチではなく、そのキーに対してoctave上の音を出すようになっているのが一般的です。

私達の教室のルッカースモデルの一段のCembaloは、音列は2列なのですが、例外的にorchestraやトリオソナタの演奏のために、音量を出すために、octave上の音ではなくって、同じ高さ、所謂、同度になっています。(それはHistoric=Traditionalではなく、例外的な配列です。)
一段鍵盤 二列の8’、8’と言います。

私達は、その音列のキーに対して、そのキーの音と、同じ高さの音、(出た音がそのkeyのpitchと、同じ高さのpitchの音の場合には、「8フィート」と呼んでいます。
略記で8’と書きます。

当然そのキーよりも、octave上の音がする場合には「4フィート」で、octave下の場合には「16フィート」と呼びます。

Baroque時代の標準の2段鍵盤のCembaloは、上の鍵盤が8フィートで、下の鍵盤が8フィートと4フィートになります。

それに対してアンマーやノイペルト等のモダンコンサートCembalo(大型Cembalo)は上の鍵盤が8フィートと4フィート、したの鍵盤が8フィートと16フィートの4列あります。

ちなみに、パイプオルガンでは32フィートや64フィート、或いは逆に2・1/2と言うフィートまであります。パイプオルガンでは実際のキーよりも10度高い音やoctave+5度高い音を出すストップ(音栓)まであるのです。)何故、実際の音の10度やoctave+5度の音が出るようになっているのかというお話は倍音率のお話をしなければなりませんので、かなり専門的な音響学のお話になるので、つまらないので、ここでは省略しておきます。 


ここで言うフィートと言う言葉ですが、勿論、フィートとは(feet)で  (foot)の複数形で、 約30.48cmを表す事は言うまでもありません。ですから、8feetは234.84cmです。

しかし、このフィートと言うのは、あくまで、ピッチを表すための便宜上の言葉であって、正式な弦の長さを示すものではありません。

ピッチは弦の太さや張力によって変わるので、標準の高度(音の高さ)を出すのに8フィートである必要はないのです。

ある音楽大学のCembalo科の生徒が、Cembaloの弦長が8フィートあるものだと勘違いをして、幾らそこの所を説明をしても分って貰えないで困ってしまいました。
その音大生は、
「8feetと書かれた文字の意味が、弦長を表すものである。」と勘違いをしてしまっていたのです。
勿論、pitchは弦の長さに関係している事は事実ですが、先ず、一番目には、・・でも、pitchは、弦の太さが太くなるに従って、pitchが下がって行きます。だから、Pianoでも、高いpitchの音は、とても細いPiano線を使い、低音域ではかなり太い線を使います。もっと、低い低音域では、その太い線に線を巻いて重量を増して音のpitchを下げます。
第二番目には、弦長です。同じ太さの弦ならば、弦が長くなれば、pitchは低くなります。弦を短くすれば、pitchは高くなります。
第三番目は、張りの強さです。張りを強くするとpitchは高くなります。
高いpitchを出そうとする時に、太い弦で張りを強くすると、弦を切ったり、ひいては楽器を痛めたりするので、高音域で太い弦を張ることはありません。
それぞれの音域でそれぞれに適した太さの弦を張ることで、楽器の受ける引っ張る力の分散をします。

昔の話ですが、半音以上下がった古いPianoをいきなり半音づつ上げようとした調律師が鋳鉄のバランスが狂ったために折れてしまって、Pianoが大破して死亡したという有名な話があります。
今でも、半音以上狂ったPianoを調律する時には、半音の3分の1ぐらいのpitchでアバウトで全音域を当てずっぽうに調律して、少しずつ少しずつ全体のバランスを取りながら、pitchを上げて行きます。

Cembaloには色々なサイズのCembaloがあるし、spinetもあるのですから、feetが弦長の意味ではないのは明白なのですが、音大のCembalo科の生徒ですら、そういう勘違いをしている生徒がいるのは、驚きですよね。

先程も書いたように、Cembaloは、それぞれサイズはまちまちだし、当然、弦長もすべて違うので、このフィートという呼び方の意味は、「Cembaloやパイプオルガンなどの共通した、ピッチを言い表すための便宜上の呼び方である」 と言う事なのです。
という事で、フィートという言葉を覚えてもらえると、pitchは443の演奏会用高度か、435のbaroqueのpitchかという風に、実際のサイクルで言い表しているので、紛らわしくなく、使い分ける事が出来ます。


feetのお話からは、逸脱してしまうのですが、ここでそのお話をすると、とても長くなってしまうので、詳しくはお話しませんが、Cembaloには、縮小鍵盤と言われる調律があります。

現代のPianoの鍵盤は、Cembaloやforte-pianoよりも、鍵盤=この場合にはキーの長さ、太さが違うので、それを縮小鍵盤という事もあるので、紛らわしいのですが、pitchに関係している縮小鍵盤という言葉もあって、話を分かり難く、混乱させる元になっています。
鍵盤が足りないので、そのkeyに足りない音を配分する調律法をshort・octaveという事があります。
以下、short・octaveの説明です。

例えば、右側の写真のCembaloの鍵盤は「シ」の音迄しかありません。
実際の曲で、ラの音迄出て来る場合には、調律でド#の音をシに調律して、シの音をラに調律する事があります。

紛らわしい事に、こういった調律をなされているCembaloやパイプ・オルガンも縮小鍵盤という事が多いのです。
だって、baroqueの奏者にとっては、短い小ぶりの鍵盤は当たり前の話で、現代の標準のサイズの鍵盤の方が、拡大鍵盤になる分けなのでね。


私が留学中に居を構えていたMunchen郊外の教会の町である Furstenfeldbruckのアザム・教会にある国宝のpipeorgelのStradivariと称される名器でジルバーマン制作のpipe organもそういう風に調律されていました。
Furstenfeldbruckに住んでいた間に、何度か教会の要請で、そのpipe organで演奏させて貰いました。
勿論、pipe organの奏者は、カール・リヒター教授の門下生である竹前光子さんで、私は光子さんに『遅い!!』とか、怒られながら、レギスターの操作を担当しました。
左側の写真はアザム・教会です。右側の写真はその、ジルバーマンオルガンです。
               

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