芦塚音楽研究所では、室内楽やオーケストラの曲の譜面を子供に渡す時、先生方と上級生が必ず模範演奏をします。(「何故CDで無いの?」という御質問もあると思いますが、一つは教室で使用されているほとんどの曲がレコーディングされて無いということ、もうひとつは仮にCDがあったとしても、テンポが速すぎて子供達の弾けるテンポを遥かに越してしまい、曲のイメージも全く違ってしまう、ということです。)
ある日、これから練習していく室内楽の楽譜を子供達に渡し、先生達が曲目の紹介で模範演奏をしていました。Haydnのカルテットの4楽章です。そのとき、こんな事が起こりました。先生達が子供の弾けるテンポとして8分の3拍子の8分音符を単位(ビート)としてM.M=80ぐらいで演奏していたら、芦塚先生が隣の部屋から飛んで来て(もっと速いテンポで手拍子しながら)
「遅い!それではメヌエットだよ。本当はこのテンポだよ!」[1]
「え〜!はやい!!」
「そうだね!8分音符取りの8ビートではすごく速く聞こえるよね。ではこれではどうかな?1小節を一拍にして、4小節を4拍にする。つまり、4拍子にするんだ!」
「遅く聞こえる!」
「どうして遅く聞こえると思う?」
「メトロノームのテンポが遅くなったから。」
「そうだよね!さっきのビートが8分音符=132だとすると、1小節取りにすると付点四分音符=44のテンポになるんだ。最初のテンポは80位だったでしょう?だから本当は速くなったのに、遅く感じるんだよ。4拍子にするには、3連符にして4拍子で書いてもいい。それを8分の12拍子にすれば1小節の中に収まる。でもなんでHaydn先生はそう書かなかったんだろうね?分かるかな?」
「分かりませーん!」
「うーん。それはね、この曲はテンポが速いから読みやすくするために8分の3拍子に音価を上げたんだよ。作曲家は演奏する人が見やすいように、速い曲になればなるほど音価の大きな音符で書いたんだよ。」
「音大の先生でも『速い曲は細かい音符で、遅い曲は大きい音符で書かれるのだ。』なんて勘違いしている先生がいるらしい。」
「それは全くの逆でね。(モーツァルトのジュピターのテーマを黒板に書いて)