日本人の音の感性

 

以前ホームページにも書いたように、東洋人には独特の感性があります。つまり特に日本人は高温多湿の国ですから、喉を絞めて搾り出すような独特の発声をしなければ音が届かないのです。そのために浪花節のように強引に喉を締め上げた力で出す発声になります。演歌の所謂こぶしのところがそうですね。

そういった日本人の感性が一番よく表れるのは器楽よりもむしろ歌です。アルトの歌い手でヨーロッパに留学してカールリヒターに見出されて、BachのカンタータのCDを出したりして、素晴しい歌い手の人がいました。日本に帰ってきて1年目に再び演奏を聞いたのですが、全くがっかりしたのですが別人のように日本の発声に戻っていました。それは私と同世代の男性歌手にも同じことが言えます。イタリアの名ボイストレーナーが日本に来て、彼を見出して、特別に特訓をしました。素晴しい歌手になってイタリア歌曲などをNHKなどで歌っていました。ボイストレーナーがイタリアに帰るときに、連れて一緒に帰るといったのですが、本人はイタリアには行きませんでした。それで1,2年もするとすっかり日本独特の発声に戻ってしまいました。

このことは多かれ少なかれ、いろいろな楽器に当てはまります。日本人の独特の音だしが高温多湿の日本の風土に根ざした、音に対しての感受性であるといったらどうでしょうかね。それがヴァイオリンの弓を力で押さえつけた3点支持の音の出し方にも顕著に現れています。3点支持の強引な音出しでは、ヴァイオリンは楽器として痛んでしまいます。自然に音を響かせてそのヴァイオリン本来の音を出す事、それが大切な事です。しかし、某国立オーケストラのコンマスのように、(私のお友達の名誉のために言っておきますが、コンマスは10名以上います。)出したい自分の音を強引に要求するようなヴァイオリニストはストラディバリの楽器ですら台無しにしてしまいます。「私色に染めて・・」と言うのは楽器では絶対にやってはいけないことなのです。


日本人の弦楽器の演奏を聞くたびに、「どうして、日本人はヴァイオリンやチェロを、ああいう風にミ〜ミ〜と奏くのだろうか?」と、常日頃から私は疑問に感じていました。
私は、結構「ながら族」です。同時に複数の仕事を「しながら」とか、「テレビを見ながら」論文を書いたりします。
という事で、ある時にテレビをつけながら、論文を書いていた時に、モンゴルの大平原で演奏する馬頭琴の音が流れてきました。その時に、ハッと気がつきましたね。馬頭琴の音は日本人のチェロの音だったのです。そうだ!!ヴァイオリンは胡弓の音ではないかいな!それこそ、高温多湿のアジアの音ですよね。



それに対してヨーロッパは一年中空気は乾燥しています。

その例が、一番現れているのはヨーデルでしょう。

ヨーデルはアルプスのふもとを登りながら、岩肌に向かって歌います。ヨーデルの甲高い音はよくこだまします。ヨーデルはアルプスの岩山では一番反響しやすい発声なのです。

同じように、ヨーロッパの音楽は、基本的に王宮か教会の石造りの広い部屋の中で演奏されました。
だからよく響かせる事が音出しの基本になります。

 

だけれども、日本人は生まれついて以来、日本的な音の出し方に慣れています。と言うか、その出し方以外、知らないのです。だから、結局、どんなに注意しても、いつの間にか無理やりに音を出してしまいます。言い換えるとそれが日本人にとって自然に聞こえるから困ったものなのです。

 

しかし、ヨーロッパでも、問題が無いわけではありません。

Baroque時代には当然製作された楽器はその楽器が演奏される会場とお客の人数に対して正常な音量を持っていました。(正常な音量と言うのは、無理なく響く音量と言う意味です。)

しかし、一般の民衆が力を持って、音楽が貴族から広く大衆のものになったときに、音楽は沢山の聴衆の前で演奏されるようになって来ました。所謂大ホールが出現したのです。初期の大ホールは現代の我々が見るような、音響の設備が考え抜かれたホールではありませんでした。ミュンヒェンのヘラクレスザールをはじめとして、むしろコングレスホール(所謂会議場を兼ねるもの)が殆どでした。
ミュンヘンのヘラクレスザール

 













そのために音響は、むしろ古典の時代になると、最悪になってきました。

そこで、violinにはいろいろな改良(?改悪)が加えられるようになりました。弦の張力に耐えられるようにviolinの表板の裏に力木を取り付けて、張りを強くするためにネックの長さを長くする。そのためにviolin特有の柔らかな暖かい音が失われる結果になって、芯の強い張りのある力強い音になりました。当然そのviolinの弦の張力に対抗できるように、弓も柔らかな、弓のそりを、逆反りに変えて、弓も毛の張力を高めたのです。

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