まえがき
音楽教室を始める前の約10年間は、大学等で教鞭を取ったり著作や作曲をしたりしながら、音大や音高の受験生の指導に当たってきました。その期間に生徒が小学生であろうと中学生であろうとかかわらず、塾や一般高校の受験などのことでレッスンに支障をきたすということは全くありませんでした。それは、すでに音楽大学に対しての知識を充分に持ち、音大を受験するという意思や意識が確立している上で私の指導を受けに釆ているからに他なりません。これは、現在も音楽方面の受験生を専門に指導されている先生なら同様で、何らのトラブルは無いと思います。
ところが、ご父兄が全く音大についてご存じない場合や、音楽教室でずっと育ってきて急遽音大に進みたいという希望を持った場合などは、何をどのくらい勉強すればよいのか、どのくらい弾ければよいのかなど、現実的な情報が無いまま困っておられる方が多いようです。極端な場合はちょっと人よりもピアノが上手に弾ければ後は何もできなくても音大に入れると勘違いされる方も少なくないようです。受験に対しては専門であるはずの高校の先生ですら、「音大は高校までの音楽の授業をしっかり受けていれば受かる」などと言う先生もいらっしゃるようです。
また一番困ることは「赤提灯の知識」と私達が呼んでいる噂話を信じ込んでいる父兄の方々です。これには面白い(悲惨な)お話がいっぱいあるのですが、話の本筋から外れてしまいますので別の機会とします。
実際にどのような科目を勉強すればよいのかということは「音楽大学受験のための手引き」に詳しく掲載しておりますので、そちらを参照してください。ここでは、音大受験と塾や一般高校受験との関わりについてお話したいと思います。
●高校受験勉強と音大受験勉強は両立できない
実例@音大受験と学校生活の両立
御両親がお子様を音大に進学させたいと希望しているにもかかわらず、目的の音大に行けなかったという例が多々あります。実際上、子供と親が音大受験ということに、いちずに取り組んでいる場合には、挫折というものはおこりえません。子供が音楽を断念せざるおえない理由の殆どが高校進学と塾の問題に原因があります。
まだ教室を作ったばかりのころ、千葉の有名校の女の子が教室を尋ねてきて、「音大を受験したいのだが」ということで、相談をうけたことがありました。母親も音大出で、母親の夢は、自分の出た大学よりもランクの高い大学に子供を受験させたいということでした。それでも浪人だけはさせたくないということで面接を致しました。ピアノがかなりおくれているので、いろいろな先生をまわったが、結局、皆に断られたということでした。確かにピアノの技術は非常に遅れていたのでしたが、とにかく一生懸命言われたとおりにレッスンを受ければということで試験的に仮入会をさせました。最初の一月のレッスンで見違えるようにピアノは上手になっていったのですが、学校の期末試験が近づくと勉強についていかないと大変だからといって、レッスンを休むようになりました。ご父兄に注意をすると、「高校で落第をしてしまうとかわいそうだから」とか「皆についていかないとかわいそうだから」といいだしたので、一月半日に、私としてはその子を希望の大学に受験させる自信はないということで教室をやめてもらいました。その後も他の先生も誰もひきうけなかったように聞いています。
実例A塾との両立
ある時私が指導していた生徒の父親から、「娘は音楽に進ませたいのだが、もしもということを考えて、塾にもいかせて良い高校を受けさせたい。」と相談されました。一応「一流高校の受験勉強と音楽の勉強は両立できませんよ。」といったことは説明したのですが、「娘の安全をご理解いただけますか。」という父親の強いご意見だった為、しかたなくその生徒の塾行きを了解いたしました。中学1・2年の時は、よく頑張って音楽と塾を両立させていたようですが、中3の夏ごろになると突然塾の生徒や先生方も受験勉強に本腰をいれてきます。彼女もさすがにその状態では、めいいっぱいになってしまい、突然「音楽をやめる」と、宣言しました。両親はあわてて「趣味でもいいからピアノを続けるように」と説得をし、ピアノは完全に趣味に変更しました。希望の有名高校に入学できたのですが、結果として彼女は将来の目的を見失ってしまったのです。高校2年生になって、「音楽の方にすすめたらいいのになぁ」と友人や先生にもらしています。一般的に言われているように「生徒が塾にかようようになったら、その子の音楽は、趣味になる」と判断するという鉄則があります。
実例B名門学校に入学できたが・・・・
また、別のケースでは、本人自信が友達や周囲の人達の手前、「良い高校に入学したい」と、頑張って入学しました。結果、音楽と勉強の両立が出来ず、目的の音大のレベルを下げざるを得なくなりました。音大のレベルをさげたにもかかわらず、高3の受験期がちかづいてくると、まわりの友達や先生方が本腰をいれて受験勉強にはいってきますので、音楽との両立ができず、「どうしてあの時に先生のいうことをきいて自分のペースでついていける高校を選ばなかったのだろう」と泣きだすこともあるありさまでした。
実例C音大進学を望みながら
もっと悪い例としては、音大に進学することを希望しているにも係わらず、高校受験の為に、音楽の勉強を半年間、或いは一年間休もうとしている生徒の場合です。教室は受験生やプロになりたい人のみを対象にして指導しているわけではありません。もしもその生徒が一般大学に進学し、音楽は「楽しみ」として続ていきたいということであれば、中学や高校受験の時に半年、或いは1年休もうともその子の将来にとって何ら問題になることはありません。しかし、もしその生徒が将来音楽の道を歩みたいということであるとすれば、それがたとえ半年であったとしてもその子の将来の致命的な打撃になるということは否めない事実です。音楽の技術は一日練習を休んだとしても先生にばれてしまうぐらいに顕著なものです。まして、半年、一年休んだとしたら、元の技術に戻るまでに一年や二年の努力では済まないでしょう。そして本人が受験勉強に専念している間も、音楽を目指している人は、日夜の努力を欠かしていません。またそういった人のみが、行ける殿堂でもあります。「安全をねらって」ということで「ほんの一年や半年受験に専念しても良いのでは」と音楽の勉強を中断してしまう場合は、音楽の方面に進むことはあきらめていただくしかないのです。何が本当に「安全」なのか、よくご理解して頂いた上で音楽進学を考えてみるべきではないでしょうか。
●高校の勉強内容は音大受験の役に立たない
例えば、その生徒が普段のペースで勉強して、入学できる学校にはいったとすれば、3年時に学校全体が受験体制になったときもなんとか音楽と学業を両立させることができるでしょう。もし、塾等で勉強して自分のレベルよりも高い学校にはいった場合には、その高校のカリキュラムについて行くにも相当の努力が必要です。しかし、その努力は、音大受験にはなんの役にも立たないのです。唯一共通科目である国語と英語すらも、音楽大学の入試に必要な内容は、一般大学の入試に必要とされる内容と趣を異にするからです。国語は、4字熟語等の就職試験の課題に非常に類似しています。音楽大学に入学したら、すぐに、英語でレッスンをうけたりするという現実的な必要性から、音楽学校の英語の試験は、会話英語にちかい形態をとります。単語はすべてわかっても、ちんぶんかんぶんで訳せないという実際の会話スタイルの英語です。ですから、会話教室で、英字新聞を訳したり、実際に外人の独特な言い回しを覚えたりするほうが音大受験にとっては有利で、高校のアカデミックな英語では、殆ど役に立たせる事ができません。音楽大学の英語や国語を高校の先生に答案を書いて見ていただいても、高校の先生が採点出来ないことの方が多いようで、英語は現在までオランダ大使館の一等翻訳官である私の兄に指導してもらっています。〔平成8年度より英語の指導はやっておりません。〕音大受験というもめは、高校の勉強とはまったく無関係な(音楽の専門教科を)何教科も勉強しなければならないということなのです。科目は5〜7教科あります。目的の大学で異なります。そのために、音大受験を狙う人の多くは、高校受験のない、私立の中学校に入学するケースが多いのです。
前述の子供たちの例に見れるように、どうしても有名高校に進学を希望する場合には、それと連動して目的の大学のレベルを下げなければいけません。一見矛盾したことのように見えるかもしれませんが、有名高校というものは、一般大学に対する予備校のようなもので、その中で教えられる過程の全ては、音楽学校の入学試験と全くなんの関わりもないからです。
まして、高校受験のために一年程ピアノのペースを遅らせた場合には、高校に入学してからその遅れをとりもどすことと、その高校の大学受験体制についていくことの両立は全く不可能と言わざるを得ません。
●音大受験特有の難しさ
音楽大学受験には、もう一つの大きな壁があります。芸大をのぞいて次のランクの大学の殆どが受験日をだぶらせているということです。ですから、すべりどめの大学を2校3校と受けることができないのです。(このことは、「音大受験の手引き」の中でにくわしく説明してあります。)そのために浪人をしないでストレートに大学受験を願うのであれば、その大学に百パーセント確実なぐらいに自分の技術をもっていかなければいけないのです。そのランクの学校を1校しか選べないということは受験するものにとっては大変なプレッシャーを強いられることになるのです。だいたい似たようなランクの大学を3校も4校も選べる一般大学とは、大変な違いがあります。
また、少子化の為受験者の総数が少なくなり、学校のレベルが下がることを危惧した全ての有名音楽大学が、短期学部、夜間、などを廃止するのみでなく、入学合格者の定員を従来より、3分の1程縮小することによって学校のレベルのキープにあたっております。武蔵野音楽大学は一時は4年生と短期、夜間の4年と短期、大学院を合わせもつマンモス大学でしたが、今では4年生と大学院のみを残し、その他の全ての部を廃止するなどして、生徒の質の維持にあたっています。それは国立音大などその他の有名音楽大学も同様です。たとえ受験者総数が2分の1位縮小しても、大学側が入学合格者の総数を減らしているので、大学の門は逆により狭い状態になっているといえます。
また更に音大の合格者総数には、音楽高校から持ち上がりで入学する生徒も含まれています。音楽高校生のうち5%ほどが脱落し、その残りの殆どの生徒が音大に進みます。70名の定員に対して約100名受験者がいたとしても、そのうち50名が音楽高校からの持ち上がりであり、実際は20名しか合格できないという訳です。
以上のような一般大学には無い音大特有の難関というものがあり、音楽大学が限られたエリートの場であることは、今でもかわらぬ現実なのです。
ま と め
以上のような状況から、高校受験によって、音楽の勉強のペースがみだれた生徒は、音大のレベルを極端に下げるか音楽進学をとりやめるかを余儀無くされる状況にあります。私が常日頃言っている事は、有名高校に進学して、大学のレベルをさげるか、(音楽進学をあきらめるか)自分の日頃のカで音楽の勉強のペースをみださないで入学できる高校にいくことで、逆に有名大学を受験することをねらうか、選択は、その2つしかないということなのです。決して音楽進学は甘いものではありません。有名高校に進学しても、ぜったい有名大学に入学してみせると、自分だけは絶対例外なんだという生徒の全てがやはり厳しい壁の前に絶対例外ではありえないのです。残念ながら、これが現実と言わなければなりません。
以下はネットで見つけた音楽大学受験についてのtweetのPageです。
音楽大学を卒業した人達の一般論として、参考までにリンクさせておきます。
教室では、こういったTwitterは全くしていないので、このPageについては、教室とは全く関係はありません。
お話されている内容についても、教室の見解を述べるものではありません。
というわけで、tweetの内容については教室は関知しませんので、悪しからず。
あくまで、教室とは関係のない「一般の意見としての参考までに」、という意味です。
音楽大学の受験勉強で音楽大学の先生に払う、レッスン料のtweetです。
ちなみに、音楽大学の先生達のレッスン料金は、tweetの中では、基本的にはone lesson制の料金としてお話されているので、間違わないように気をつけてください。
音楽大学を受験する場合には、one lesson制が一般的だからです。
一般の音楽教室は、(私達の教室もそうですが・・)レッスン代は月謝制なので、音楽大学受験のtweetで、お話の料金と比較対照する場合には、金額を間違わないようにしてください。
当然、one lessonの料金の4倍が、月謝と同じ料金になります。
one lesson代が1万5千円ならば、月謝は6万円として、換算してください。
音楽大学受験の場合でも、solfegeや楽典等のレッスンで、グループ・レッスンの場合には、月謝制にしている先生もいますので、紛らわしいので注意してください。
音大を卒業して、音楽家として、生きて行く事は可能か?という音大神話に対してのtweetです。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2012/0216/483974.htm?g=08
受験に必要なone lessonのお金のお話のtweetです。
http://okwave.jp/qa/q1403946.html
受験に必要なone lessonのお金のお話のtweetです。
http://www.casphy.com/bbs/test/read.cgi/ondai/1228557411/l50
http://www.geidai.ac.jp/life/shinro20110501_02.pdf
芸大の最近5年の就職率とその打ち明けのPageです。
最初のPageは音楽科は3Page目です。
一番左に各科別と総計の生徒数、企業名の横の小さな数字がその企業に就職した人の数、後は大学院や留学した人と、自宅で教室を作った人の数、一番右側に就職未定者の数があります。半数以上の卒業生が就職も留学も出来ないままに、自宅待機になっている現状が見て取れます。
芸大ですらこの現状なので、他の私立はもっと悲惨な状況があります。
一般の人達が音楽大学に夢を抱いている大学と、実際の音楽大学の現状とは全く別物と言っていいほどギャップがあるのです。
それを踏まえた上で、上記の音楽大学卒業生達の音楽大学に対してのtweetを読むと、本当に意味で日本の音楽大学の姿勢がリアルに見えてきます。
その前提の上で、改めて芦塚先生の教育論文を、読まれると、芦塚先生の教育論文が如何に現実的な内容で、リアリティのある論文であったのか、が理解出来ます。