オケ練習のconceptとcapacityの話

 

キャバシティの話へ

芦塚先生が、子供達にいつも話している、プロになるための条件の話がある。

日本の音楽家たちは、演奏する時間と場所が決まってから、曲を決めてそれから練習を始める。

芦塚先生は、「それでは永遠にプロにはなれない!」と言って、魚屋さんの話とお蕎麦屋さんの話をする。

プロの二つの条件は、Niveau(水準)とレパートリーである。

 

まず、その一つのレパートリーの話をしよう。

お魚屋さんがあった。

その魚屋さんは、お客さんから注文があってから、釣りに出かける。

しかし、天気の都合で、釣れないときもあったりして…。

漁師さんとは基本的に職業が違うのだから、そんな魚屋さんは、一瞬でつぶれてしまうよね。

その話を、日本の音楽家たちの話として改めて進めてみると、話がよくわかる。

日本の音楽家たちは、演奏の場所が決まらないと練習を開始しない。

つまり、レパートリーという概念が最初からないからである。

つまり、店先に置く商品がなくって、受注販売をしているということである。

一般の職業で、受注販売をするには、その店の商品のクオリティが世間に認められているから、注文が来るわけだ。音楽家でいえば、演奏活動を続けていて、社会に余程認められた実力のある演奏家であるという条件をクリアしなければならない。プロを目指す音楽家や、やっとプロになったばかりの初心者のプロが同じことをやっては絶対にいけない。それで社会から評価されるわけでは、決してないからである。

この話は、芦塚先生のホームページの『「プロになりたい」と先生を探し求めていた音大生の話』、の中で、かなり詳しく説明してある。

 

次は、キャパシティの話であるが、演奏会には2時間のショート・プログラムと2時間半のロング・プログラムの2種類がある。

プロになるためのレパートリーは、当然、その演奏時間を基準にして、レパートリーを作成しなければならないし、その曲は、ただ単に今まで練習してきた、自分が弾ける曲を寄せ集めたものではなく、演奏会としてのプログラム上の統一性(コンセプト)を持ったものでなければならない。

具体的に言うと、「幻想曲の夕べ」とか、「リストのハンガリー狂詩曲の夕べ」などという共通のテーマに基づいたプログラム上の統一である。

一般の音楽家たちは、そのレパートリーを作るのに1年や2年もかけてレパートリーを作成する。

冗談で、先程の「お魚屋さんの話」に戻ると、お店を開くのに、1年も2年もかけて釣りをしているのならば、お店がやっていけないだけではなく、生活が出来ない、生きていけないであろう。

お店をやらなくても、生活が困らないのならば、それはお嬢さまの道楽にしかすぎない。

つまり、プロではなく趣味の世界である。

プロというのは、生活をするために演奏活動をする人たちのことを言うのだよ。

 

音大を卒業してから、自分の演奏会用のレパートリーを作ろうとすれば、それは確かに大変な労力と困難を伴うであろう。しかし、日本の音楽教育の中で、最初から演奏家になることを想定して、レパートリーを作成するためのカリキュラムで、音楽指導をする教育機関は皆無である。

子供のうちから、習った曲をフィードバックして演奏するのならば、レパートリー作成は、何の苦労も、困難も伴わない。つまり、それが当たり前のことになってしまうからだ。

ということで、芦塚メトードとして、芦塚音楽研究所のカリキュラムでは、まず、その水準に至った生徒がオーケストラではsoloをして、soloが終了したお兄さん、お姉さん達がオケバックに回るというシステムをとっている。オケに回るということは、年下の後輩たちの面倒を見る」という風に誤解をしている父兄が多いが、本当は、本人たちの学んだ音楽をフィードバックするためのsystem

なのだ。それと同時に、ソロのパートだけでなく、ヴァイオリンのパートからビオラのパートに至るまで、暗譜で演奏出来るようになるので、曲の理解や演奏のテクニックの習得は、他の教室の学習とは比べ物にならないほど確実で正確である。

暗譜と同じようにレパートリーも慣れである。

子供のうちから、feedbackフィードバックが習性になるならば、レパートリー作成はその難しいことではない。

この、feedback練習のカリキュラムは、曲の演奏のNiveauを上げるというだけの意味には留まらない。演奏会をやりたいと願う音楽家たちが、1番困難に感じるのは、先程も言った、演奏時間の問題である。勿論、その一つは曲数による演奏時間の問題だが、もう一つは、その演奏時間を弾き続けなければいけない、という精神力、体力の問題である。日本の音楽家たちは、子供の頃からの発表会や音楽大学の学内演奏会も含めて、一つの演奏会をキープするための、演奏時間を演奏し続けた経験は無い。大手企業の音楽教室の発表会では一人3分、特別な生徒の場合でも7分を超すことは無い。音大の学内演奏会で長大な曲を演奏したとしても、20分が関の山であろう。つまり、日本人の音楽家の場合、2時間、舞台上で演奏をし続ける、という経験のある音楽家は皆無である。

私たちの音楽教室では、子供達は、自分のsolo、室内楽、オケsolo、オケバック、後輩たちのサポート演奏等々、小学2、3年生の生徒であっても、中級者、上級者は、舞台の演奏時間が2時間を超える生徒はザラである。それがコンクールなどでの全国大会を週1回の通常のレッスンの中で制覇してしまう潜在実力となる。しかも、それは強制された勉強ではなく、みんなと楽しくもムジチーレンして遊ぶという、子供達にとっては至高の時間である。それこそ、その時間が12時間になったとしても、その練習に飽きることも、楽しさが辛さに変わることは無い。

 

次に大切な問題は、レパートリーの持続である。

実際には、一般の音楽家が演奏家として活動を続けたいと欲するのならば、一旦作り上げたレパートリーの演奏のNiveauをキープするために、その曲を何度も練習して、feedback(フィードバック)しなければならない。

その当たり前の事がプロを志すものでさえ出来ないのは、あながち精神的なプレッシャーだけではなく、練習の時間的な問題や、肉体的体力の問題や、精神的な持続力の問題も絡んでくるからである。

一度弾いたことのある曲を、練習しようとしても、「通し弾き」をするだけでも、それなりの時間がかかる。

ましてや真面目に部分練習や分解練習をするとなると、以前弾けていた曲を以前のレベルまでフィードバックするだけでも、莫大な時間とエネルギーを浪費するからである。

 

プロの演奏家に対してのレッスンであるが、芦塚先生が「レパートリー作成のカリキュラム上のレッスン」をする時に、生徒が一度演奏会をすると、「埃とゴミの掃除」という事で、演奏会のために表現がおかしくなった所や、雑になった所、そういった所のメンテナンス・レッスンをする。

そうして、ピカピカになった所で、初めてフィードバック練習に回すわけである。

 

芦塚メトードで、どんなに楽になったとはいえ、やはりプロになるには、それなりの苦労と忍耐は必要である。

そういったストイックな性格を持って無いと自覚するのならば、やはりプロに進むべきではないと思う。プロはほんの一握りの自己完結型の性格の人間の集団である。それはやはり大変厳しいよ!