まだ10才かそこいらの少年は、古ぼけた汚れた学生服を着ていた。バスは真っ暗な山道をひたすら走っていた。泥道のような山道をバスは猛烈に揺れながら走っていた。
こんな深夜にもかかわらずバスは混んでいた。真っ暗で周りは何も見えず、少年の周りの人影さえおぽろげであった。ただヘッドライトに映し出される夜道だけが唯一見えるものであった。
いっしかバスは、一軒の古ぼけた家の前に止まった。バスから降りた乗客は、その家の中に吸い込まれていった。少年が一緒に入っていくと、それは狭い畳の一部屋しかない建物であった。
下りた乗客たちは皆畳の上に体を横たえていた。しかし、男なのか女なのかそれもわからないように暗かった。少年は、奥の隅の方に扉を見つけた。そこからその扉の木の節の聞から白い光が光っていた。少年は、周りの人を起こさないように気をつけながらその扉をおもいっきり押し上げた。少年の手が届かなくなったらその扉は「バタン」と音をたてておもいっきり開いてしまった。その瞬間少年の前には、明るい海がそこにあった。海の右側を見ると、木の生い茂った入江が見えた。温かい風が少年の顔にさっと吹きつけた。どこにでもあるような海だ。しかし、少年の体のそこからこみ上げてくるものがあった。
少年は必死になってこらえたのだが、口から「あ−あ−あ−あ−あ−」とうめき声に似た声がもれた。そして、目から止めどなく涙が流れてくるのであった。
今まで赤ん坊に乳を与えていた女が必死に涙を堪えながら、少年を真後ろから抱きしめた。そして、鳴咽は静かに少年の周りに広がっていった。


夢より