それに対して全音版では前半のa, a’をmezzoforteで演奏して、分割できないbの部分をPに落として大きな膨らまし(6小節目を頂点とする)をさせてPで終止させている。(所謂、bogen formである。)
譜例:
11小節後半から23小節まで
譜例:
安川版では13小節目と14小節目にdecrescendoの記号が書いてあって、13小節目の後半にcrescendoが書いてあるのだが、これではcrescendoが14,15小節目まで掛かるcrescendoなのか、単なる膨らましのための記号なのか分からない。もしも、19小節目のフェルマータまでかけたいcrescendoならば、正規のcrescendoが17小節目にあるので、そこまでのcrescendoという事で、poco a poco crescendoとすべきである。
安川版の13小節目のcrescendoがフェルマータに向かって掛かっているとすれば、Pianoを学び始めた初心者の段階で、この曲を演奏出来る子供は現実的にはいないだろう。
超特別な産まれた時から芸大や桐朋を憧れて、日夜死に物狂いで練習している生徒を除いては、世間一般のコンクール組みの生徒でも無理であろう。
それに対して全音版は最初をmezzoforte2回目をP、3回目を又、mezzoforteとして、16小節目後半、Pから徐々にフェルマータに向かってcrescendoをしていく。
そういった意味では全音版の方が、音楽上の表現力も含めて、すこぶる良い。
続けて、20小節目からrepriseまで
安川版では20小節目にcalandoが出てきて、静かにreleaseに入る。フェルマータでforteからdecrescendoをして、一番下の音から上行しながら、更にcalandoは上級者でも難しい。
ましてや初級の教材としては不可能である。しかし、曲の開始の設定がPであるから、いたし方はない。
全音版は曲の開始をmezzoforteと設定した。だから、20小節目の2拍目の頭の音がPであれば、そこから又、mfに向かってcrescendoすればよい。21小節目2拍目のthemaの開始音がmfになればよいのだから。
次には29小節目の説明になりますが、29小節目からの説明は、話の順番の都合で先にお話しましたね。
という事で、本来的には此処から、練習の指導のlectureに入るわけなのですが、今回のお話は、楽譜の校訂の違いと、その違いによって引き起こされる演奏の違いのお話と、楽曲の構造分析に限ってのお話までにします。
演奏の指導、若しくは練習のさせ方のlectureまで行くと、この2倍、3倍のPage数が必要となりますので、今回のお話は此処までで終わります。
江古田の一静庵の庵居にて
2010年05月18日
芦 塚 陽 二 拝