純正調の調律は、その曲自体が転調などをしていなかったとしても(その調性の中に納まっていたとしても)、出て来た音が導音となる場合とそうでない場合には、明らかに響き(ピッチ)が異なるということが、しばしば起こってしまう。
つまり音が転調も含まず(クロマティックな和音も含まず)しかもディアトニックな音列の中に納まっていたとしても、純正な響きを出し得ないという事が頻繁に起こって来るのです。
一般の文献には、あたかもBachが初めて平均率の調律を始めたように書かれている文献などが今日でも結構見受けますが、平均率自体はもっと古い時代から使用されていました。
調律法も当時から既にたくさんあって、すべて「帯に短し、襷に長し!」といった風で、私達はどうすりゃいいのかねぇ?!
よっぽどの例外の曲を除いて、殆どの場合はヴァイオリンが純正で演奏したとしても、私達はチェンバロは平均率でチューニングします。
仮にチェンバロが純正調で弾ける曲があったとしても、演奏会のためには、同じ調で演奏出来る曲を、何曲かをセットにしなければなりません。
そうしないと、演奏時間よりチューニング時間の方が多くなってしまうからなのですよ。
もう一つは、baroqueの演奏会では、その都度、楽器の都合によって、tuningするための基準のpitchが変わる事もよくある。
チェンバロのお話ではなく、音楽会の一般的なお話ですが、演奏会のpitchは、会場のピアノのpitchで決まります。
通常は、pianistの好みで、ホールのピアノを好みのpitchに調律するのですが、演奏会が終わったら、元のpitchに戻さなければならないので、私達の場合には、会場のピアノのpitchに演奏会のpitchを合わせています。
今現在、日本中の殆どのホールのピアノのpitchは443サイクルの演奏会高度を取っています。
正式には、442サイクルで調律をしたのでしょうが、会場の温度差等で、443になってしまっているのだと思います。
会場のピアノのpitchが442から443サイクルだとして、baroqueを演奏する時には、pitchをbaroque用に下げます。
教室の場合には、子供のorchestraや室内楽の演奏では、そのまま443のサイクルで演奏します。
先生達がoriginalbaroqueの演奏をする時には、baroquepitchで演奏します。
でも、その都度、チェンバロのpitchをチューニングし直していては、tuningの時間が間に合わないし、それにpitchが不安定になって、演奏中に狂ってしまう事になります。
という事で、現代のチェンバロには、スライド鍵盤という機能が備わっています。
上記の写真のCembaloは1段のルッカース・モデルも2段のグジョン・モデルもスライド・鍵盤と言って、鍵盤をずらす事によって、pitchを変えることが出来るのです。
但し、Cembaloを443で調律した場合には、鍵盤をスライドさせると、As(ラ♭)の位置に鍵盤のAの音が来るので、Aは418サイクルになってしまいます。
ところが、市販のbaroqueのrecorderは殆どの楽器が、435サイクルなのです。
これでは、recorderとの合わせは出来ません。
スライド鍵盤を用いても、baroquepitchの演奏は出来ないのですよ。
しかも、スライド鍵盤の場合には、440の場合には、415サイクルだし、教室の443サイクルの場合には、それでも418サイクルで、baroqueviolinのガット弦では、pitchが低すぎて、弦の鳴りがあまりよくありません。
実際に、baroqueviolinで試して見ると、(baroqueのガット弦もたくさんのメーカーが色々な種類のガット弦を販売しているので、一概にこうとは言えないのですが、教室で使用しているガット弦の場合に限って言えば)442サイクルぐらいが一番、弦の音の鳴りが良かったので、東京のbaroqueの発表会ではspinettを426サイクルに下げて演奏した。
当日の演奏会の曲であるbiberのsonateの曲は、scordaturaで書かれていたので、弦を通常よりも3度も高くtuningしなければ、ならなかったからでもあります。
これ以上、弦を高くtuningすると、弦が切れてしまうおそれもあったからです。
というわけで、チェンバロを買うという条件には、tuningを自分でも出来るようにする事が必然となってしまいます。
しかし、チェンバリストとしては、一応、純正調の調律は、必要はありません。
平均率でチューニング出来るようにしておけば、殆どの場合、間に合うと思いますし、慣れてくればチューニングの速度もだんだん早く出来るようになります。
コツは慣れない間は、日常的に、少しずつチューニングすることです。
基本的には、一列ずつでも良いのですが、それすら時間がなくて大変な時には、まず中音域、高音域、低音域に分けて、よく使用する音域だけをしっかりチューニングして、後は気になる音(あまりにも狂いの酷い音)をピックアップしながら、全体をバランスよく、チューニングしていけばよいと思います。