調弦について

ご父兄からの質問メール

こんばんは。

夜分に申し訳ありませんが、どうしても気になってお尋ねしたいと思い、メールさせていただきました。

アイロンがけやら繕い物やらしながらCDをかけていたのですが、先ほどまでヴァイオリンを聴いていてピアノ曲に変えたところ、ヘルツのためかと思われますが、音が低くノスタルジックなかんじで音の高さに違和感を感じます。前々からなぜだろう?と思いつつ棚上げにしていたのですが、どうしてヴァイオリンとピアノの調律は異なるヘルツで行うのですか?たとえばピアノ協奏曲のときはオケはピアノのヘルツにまでみんなが下げているのですか?また管楽器はどうなのでしょうか?

芦塚先生、どうか疑問を解消してください!

 

たぶん、ピッチの事はホームページの論文に詳しく書いていたと思うのですが、どのPageに書いたのか思い出せませんので、簡単にご説明させていただきます。

参考までに、教室のホームページ[芦塚音楽研究所]から、「芦塚先生の部屋」⇒「楽典のお話」⇒「baroque時代のpitch」で、少しpitchに関して触れていますので、ご参考になさってください。

 

まず、余談で・・・:

ご質問にお答えする前に、言葉の定義をします。

[ヘルツとサイクル]

まず、ヘルツという言葉とピッチという言葉ですが、ピッチとは音楽用語では音の高さの事を言うようです。

ヘルツというのはもっと厳密な振動数の事です。

Aの音は何ヘルツであるか、というように使用します。

1Hzとは1秒間に一回振動した、という意味です。

ヘルツもサイクルも同じ振動数の意味です。(勿論、1?の音は低周波と言って人には聞こえない音ですがね。)

ご質問の意図は、Pianoとorchestraのpitchが違うという事は、Pianoを単独に聞いて、他の曲を聞いた時に・・・別のタイミングでorchestraの演奏を聞いた時に・・・、というと意味が変わってしまうので、orchestraのconcerto等でPianoのpitchが・・・という意味の二つに解釈が出来るので、チョッと回答が変わってしまうので、どちらの意味かな??と考えてしまったのですが、最初の意味だとすると、それは、Pianoもorchestraも、結構好みでpitchが変わったりするので、論外になってしまいます。
orchestraとの共演等でpitchが変わってくるとなると、それは結構、大問題なのですが、それはそれで理由はあります。
orchestraの基本では、pitchは一番pitchの調整が難しい楽器を基準にして、チューニングします。通常はオーボエが一番音が合わせにくいので、オーボエを基準にして全体の楽器をチューニングします。
Pianoを使用するorchestraの場合には、会場では、当然、Pianoに合わせてチューニングをする分けですが、orchestraの楽器は自由にチューニング出来るわけではありませんので、基本的には、Pianoはorchestraの楽器のチューニングの範囲内のpitchを越してチューニングする事はありません。
一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、次のbaroquepitchのお話と読み比べて貰うとわかりやすいかもしれません。
baroqueのpitchは後述しますが、基本的には435サイクルから430サイクルです。世界で最初に統一の国際高度を決めた時の国際標準pitchは435サイクルだったのです。
だから、本来的なbaroqueのpitchは435サイクルでなければなりません。
しかし、Cembaloのような古楽器でも、現代の440サイクルで演奏しなければならない機会が多いのです。特にアンサンブルをする時に、baroqueの音楽の演奏をbaroqueのpitchで演奏するには演奏者がbaroquepitchの楽器を持っていなければならないからです。
しかし、baroquepitchの楽器を持っている人はproと言えども非常に限られています。
という事で、仕方なく、Cembaloを現代の標準pitchの440サイクルで調弦した場合に、鍵盤を下にスライドさせて、半音下の音を弾くようにして、便宜上それをbaroquepitchと定めました。
つまり、半音下のAsの音をbaroquepitchのAの音にしたのです。これで、baroque楽器を持たない人達もbaroqueのpitchで演奏する事が出来るようになりました。
参考までに:Pachelbel chaconne f 芦塚陽二version(A=418)で、ホ短調で演奏していますが、実はf moll へ短調です。
baroquepitchでは、f mollの曲ですが、ホ短調にする事で、baroque楽器を持たない子供達でも、baroquepitchで演奏する事が出来る分けですよね。

concerto等の場合には、pitchは基本的にはsolisteではなく、指揮者が決めます。
演奏会では、コンサートが始まる前に、予めPianoの調律を調律師がチューニングします。そのPianoのpitchに合わせて、orchestraの楽器がチューニングをするのですが、それはPianoのAに合わせて正確にチューニングをします。
但し、コンサートホールでは、空調の性やお客さまが入る事によって温度や湿度が急激に変化するので、弦楽器や管楽器は可能な限り演奏しながら微調整をしながら演奏します。
それでも、orchestraのpitchがPianoよりも高くなってしまう事はママあります。
ご質問の内容はそういったことでしょうか?? 

[基準のpitch]

古の昔は、基準になるpitchというものはありませんでした。

私達は「Fiori musicali baroque ensemble」と言う、とてつもなく長い名前で古楽器の演奏団体として演奏をしています。

その古楽器の時代のヴァイオリンやチェロなどの弦楽器は、現在のような張りの強い切れにくい色々と加工された弦ではなく、それこそ自然なままのガット(羊やブタの腸から作られた弦)で演奏しますので、その日の気温や湿度のコンディションに左右されて、切れたり、演奏中に緩んでしまったりしました。

そのために、その日の演奏会の基準のpitchは、その日の気候の状態で、一番良く鳴って切れにくい弦の張り具合のpitch(音の高さ)で演奏していました。

それがヴァイオリンなどを基準に考える場合には、通常は(一般的には)、435から438の間である事が多かったのです。

ヴァイオリンという事は、チェロやバス・ガンバ等の低音をつかさどる楽器はもっと低いpitchでもよかったはずです。
あくまでヴァイオリンやソプラノ・ガンバを中心に考えた時のお話ですよ
管楽器は逆で、むしろ現代よりも高いpitchの楽器も多く見受けられたのですよ。

弦楽器を中心として、考えた場合に、ガット弦のpitchの限界として、438辺りのpitchがbaroquepitchと呼ばれるようになったのです。

ですから、教室の生徒達の場合には、普段443サイクルでチューニングしているので、もしガット弦を使用して演奏した場合には、弦が張りすぎて、演奏する前に、すぐに切れてしまうでしょうね。

そう言う風にガット弦は、現代の弦と比べて張りが弱く、pitchを高くする事は苦手だったので、それが理由で「baroque時代はpitchが低かった。」という通説が流れてしまいました。
通説(風説)というのは、先程も言ったように、pitchが低かったのは弦楽器のガット弦のためであって、管楽器では逆にpitchは高かったからです。

つまり、baroque時代にはpitchが低かったというのは、それは弦楽器を中心にして考えた時のお話であって、風説に過ぎなかったのですよ。

 

[管楽器の場合]

弦楽器が切れやすい弦の張力のせいで、pitchが低めになることのほうが多かったのに対して、管楽器は逆にpitchが高い方が演奏が楽である事は今も昔も変わりありません。

ヨーロッパの村のブラスバンドの基準のpitchは町の教会のオルガンのpitchに合わせて、作られることが多かったのです。
その主な理由は、勿論、利用頻度です。

教会では毎週の日曜日の午前中に、定期的におこなわれるGottesdienst(日曜礼拝)のために、色々な音楽(楽器)が演奏されました。教会での演奏の方が、お祭りやイベントなどの演奏よりも遥かに演奏回数は多かったのです。(楽器の使用回数が多かったと言うことです。) 

そのために、村の管楽器のpitchはその村の教会のパイプオルガンのpitchにあわせて制作されることが多かったのです。ヨーロッパの村は、教会との結びつきとても強く、また映画も音楽会もない、単調な村の生活にとっては、唯一の娯楽であり、息抜きでもあったのです。
参考:小さなKochel村の教会

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