教科書ソナタ
M.Clmenti
sonatine Op.36Nr.1 sonatinealbum1巻 第7番
子供達に音楽の構造や曲の分析を説明する時に、大人や子供に関わらず、その説明を「難しい」と感じるか否かは、そういった分析の用語に慣れているか、にかかっています。
そういった事もあって、私達の教室では、比較的初歩のバイエルの段階から、楽典や音楽の形式等の基礎知識や構造分析等を、楽器のレッスンの中に取り入れて指導しています。
勿論、本来の目的は、曲を構造分析的に捉えられることによって、音楽の理解や暗譜、曲の解釈や練習の仕方等が飛躍的に上達出来るからなのです。
補足説明:
Beyer教則本は、その構造式も非常にsimpleな型から、3部形式、複合三部形式迄の非常に簡単な形式で作曲されています。その形式の基礎と楽典に出てくる基本的な樂語を指導するには、その単純さ故に、これ程、優れた教則本はありません。BeyerとBurgmullerの教則本で基本的な、基礎的な樂語を覚え理解しておくことが、次のstep(sonatineクラスの楽曲分析)での、理解を円滑にする事が出来ます。
しかし、余所の教室から変わって来た生徒達は、sonatineやsonateを学習するlevelに至っても、「そういった理論的な説明はlessonで先生から一度も話て貰ったことがない、否、聞いた事すらない。」と言っていました!
私達の教室に代わってきて、初めて先生の楽典的な、或いは論理的な説明を受けて、BeyerやBurgmullerの教材、或いは、sonatine等の曲を学びながら、「私が習ってきた曲は、そんな風に出来ていたんだ!」と、驚いて、「今までに、そんな説明をしてもらえたら、曲の練習は楽しかったのに!」と言っていました。
私は、直接、指導に携わっている先生方から、その話を聞いて、「それは大変だ!」という事で、取り敢えず、応急的に、このページをアップする事にしました。
もっとも、この文章自体は、子供達に直接説明する文章ではありません。
子供を前にして、楽譜をゆびさしながら、直接説明すると、この話は簡単でとても楽しいのですが、文章で書くと、とても難しそうで、ややこしく複雑になるからなのです。
だから、指導する先生や上級生の人達が、曲の構造を理解し、後輩達に説明をしてくれれば良いと思っています。
私が最初に、この曲を選んだのは、当然、今現在他の教室から代わってきて、この曲を勉強している生徒がいるという、現実的な理由です。
が、本当の理由は、Burgmullerから、sonatine albumのlevelに達した生徒は、sonatineを勉強するための、最初の課題曲として、ソナチネ・アルバムの1巻から、第7番、所謂、ClmentiのOp36 Nr.1を課題曲に貰う事が多い・・と言う事だからです。
この曲は、通常、一般的には世界で1番短いソナタと言われています。
しかし、この言葉には少し、語弊があります。
つまり、「短い…」 という意味が、唯、単に、小節の数であるとすれば、むしろBeethovenのG Durのソナチネの方が、小節数は、34小節で、この7番の小節数、38小節よりも、4小節も短いことになります。
という事で、この曲は世界で一番、歴史的にも最も短いsonateではないのです。
唯、この場合、BeethovenのG Durは、曲としては可愛らしくて、指導的に考えても、とても素晴らしい曲なのだが、sonatineとしての、楽典上の指導教材的には、sonatineの教科書的なモデルとなる作品ではありません。
つまり、本当のsonatineらしいsonatineという意味では、このClmentiのsonatineの曲に勝る曲はありません。
練習曲として、指導教材として作曲される教本は、私がよく知っている練習曲としての教則本の他に、その目的によって、幾つかのジャンルに分類されます。
例えば、ヴァイオリンには「スチューデント・コンチェルト」というヴァイオリンの、学習者の技術習得の勉強のためを、目的として作曲されたジャンルの作品が沢山あります。
F SeitzやP Rode、J Accolayのようなヴァイオリンの教育者だけでなく、H Vieuxempsのような大作曲家もこのジャンルの作品を沢山作曲しています。
指導用の教材というジャンルは、演奏技術を習得するための作品で、取り込まれている、曲の内容も、技術的要素がより多く盛り込まれた作品が多いので、作曲家も、作曲の専門家よりも、演奏家が作るケースが非常に多いのです。
それに対して、作曲技法に関するジャンルの作品では、教科書****という分類の作品は、実際にはありません。
でも、数多くの優れた作曲家は、自分の弟子達に対して、曲のconceptや構造等を指導するための作品を数多く作曲しています。
実はBach等も、自分の作品の一曲目の曲は、そのZirkusのsampleとして、作曲をしています。多くの初心者がお世話になる、inventionの第一曲目C Durや二曲目のc mollの作品、三声のsinfonia等の一曲目やに曲目の曲もそうです。
同様に、Bachの作曲技法の第集成である平均律クラヴィーアの為の前奏曲とフーガ(全二巻)は、全体的には、Bachの作曲技法の粋を使って作曲された、Bachの独自性を最大限に引き出した自由fugaで作曲されているのですが、その各巻の第一曲目と二曲目は、昔ながらの定型通りの教科書fugaで作曲されています。つまり、BachはそのC Durとc
mollの作品を使って、fugaとは何か?どういう形式で作曲されているのか?その技法の色々なテクニックは・・・と、その曲をしようして、fugaや前奏曲の作曲の仕方や演奏のコツを説明したに違いありません。
非常に、難しい対位法の技法の必要なfugaのようなジャンルでは、そういった曲が結構数多く作曲されていました。
ベートーベンやモーツァルト等、数多くの作曲家が学習したフックスの教科書フーガもそのうちの超有名な作品であります。
しかし、残念ながら、ソナタと呼ばれるジャンルでは、そのような定型の教科書sonateと名付けられる作品はありません。
Beethovenや他の作曲家の初期の作品は、確かに単純な構造の曲も数多くありますが、それは寧ろ、習作と呼べるものであって、教科書sonateという名称で呼ばれるような、水準に達している分けではありません。
ちなみに、MozartやHaydnの初期の作品は、まだsonate形式が確立される前だったので、寧ろ、形式的にはディベルティメント等の組曲であり、sonate形式の萌芽は見せているものの、sonate形式の解説に足りる完成されたものではありません。
という事で、この一見簡単そうで手軽に作曲されたように見える、sonatine Op.36Nr.1は、Clmentiがソナタの構造式の解説のために作った、ミニマムに凝縮されたソナタ形式の作品であり、Clmentiの作曲学上の、緻密で、しかも非常に優れた作曲技術を持って制作された作品であり、そのために、この曲の構造式を生徒達に説明するには、指導者の高度な作曲に対しての知識を要する作品でもあります。
ClmentiやHaydnが作り上げた、ソナタ形式の構造分析は、Motivが如何に機能的に活用されているか、という点を、演奏者がどこまで、正確に判断、解釈し、その上で演奏表現出来るか、という点に集約出来ます。
という事で、この曲に対しての簡単な解説を試みましょう。
T楽章
譜例:1thema、第一主題のMotiv
1楽章の第一主題はハ長調のドミソの主和音の中に収まるということと、ミ、ドの3度が効果的に、実に機能的に使用されているということを踏まえて、覚えておかなければならない。
つまり、このドー、 ミ、ド のミ、ド3度は、その後のありとあらゆる場所に於いて、効果的に使用されています。
そのテクニックは素晴らしいの一言に尽きるのです。
また、何気ない、2小節目の経過句に繋がるソとソのoctaveの跳躍は、当時の慣習的には、非常に例外的な使用なのだが、それが第二主題として効果的に印象的に使用されています。
譜例:2
また、4小節目では右手のレからソまでのscaleと、左手のソからド迄のscaleが結合して、レからド迄のoctave+2度のscaleになっているが、8小節目から9小節目の音の動きもoctave+2度と、それに加えて、譜例:2の2小節目に登場した、octaveの動きになっています。第二主題は第一主題の展開型で出来ているのです。
これは、言葉では分かりにくいかもしれないので、実際の譜例でせつめいします。
譜例:4小節目のscaleから第二主題が出来るまで
原譜では4小節目の3拍目では4分音符のソの音で終わります。
しかし、右手最後のソの音と同時に、左手がソからド迄のscaleを演奏します。
この、左手をoctave上げて右手に持っていくと、レからド迄の長いoctave+2度のscaleが出来上がります。
更にそのscaleを逆さまに読むと(逆行型と言います)第二主題が出来上がります。
4小節目に出てくる右手のレからソまでの5度や、左手のソからドまでの5度のscaleは、そのまま、8小節目からの小節の頭の音(所謂、scaleの開始音)になって、(8小節目の開始音がソ、9小節目の開始音がラ、10小節目の開始音がシ・・・)という風に、12小節目まで、つまりソからレの音迄、4小節目のMotivである5度のscaleをしながら、octaveのscale+2度のSequenzを繰り返してしています。
勿論、左手のbassも10小節目のソの音から、14小節目のレの音迄、Motivの5度のscaleを律儀に繰り返しています。
8小節目から、15小節目迄の、小節の頭の音の動き(非常に大きな5度のscale)
右手はソからレまで、左手は10小節目からソからレ迄の音階進行をします。
譜例:3-a
大きな追っかけっ子になっているという事です。
譜例:3-b