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5小節目からは展開発展をしながら第二themaの調である属調GDurへの移行をします。
譜例:9−b


この時に、「譜例:3」 で説明したように、小さなscaleのMotivを繰り返しながら、小節単位に反行形の拡大型でMotiv「C」を演奏します。

しかも、その開始音は右手が8小節目であり、左手は2小節遅れて10小節目からMotiv「C」を開始する。12小節目は、いまだ、Motiv「C」の途中ではあるが、終止句、所謂、kadenzとなっています。

という事で、一部の提示部が終了します。

次はBの展開部です。

開始は同主短調であるc mollから開始する。ThemaAがお定まりで、2回繰り返される。
所謂、bogen formによる再現であります。
当然、bogen form後半のBの主題は、先に述べた如くに、経過音の非和声音を省いた、譜例:4の実際のthema Bで展開されます。「譜例:5参照」

20,21小節目の右手のAlbertiのGと左手の保続音のGは、人によってはorgelpunkt(オルゲル・プンクトオルガン点)と呼ぶ人もいます。
でも、チョッとorgelpunktに対する「入(in)」も「出(out)」も、短すぎるので無理があるかな?・・とも、思うのですが、教科書sonate(sonatine)として、説明のためのsamplingには、それでも良いのかな??

 

24小節目からが、再現部となるのだが、曲がみじかいので、再現部はoctave下で再現されます。
これは、MozartのPianosonateのK.545 C Durの一楽章の再現部も同じで、本来は主調のC Durで再現されなければならない所を、下属調のF Durでrepriseさせています。

28小節目はthemaAがひっくり返されて、展開される。31小節目からは、定形の第二主題の再現で、型通りに主調(元の調)で再現されます。

35小節目迄は、型通りなのだが、36小節目からは、kleinigkeitの変更がなされていて、第二themaのBの反行型、37小節目は、7小節目のブロークン・コードが半拍連れた型になっています。
それなのに、左手の動きは定型通りなのです。そこの作曲技術は、流石(さすが)です。

蛇足: 

12音技法の提唱者で有名なSchonbergは同時優れた、理論家でもありました。
彼が分析の時によく「無意識のahnlichkeit(類似性)」という言葉を言っていました。
一見するとthemaから派生したMotivのように見えるMotivでも、実際には、作曲家の「感覚的、無意識にthemaに似てしまったに過ぎないMotiv」・・と、いう意味であります。
私が中、高生の時に読んだ、日本の樂曲分析の本には、構造分析の中には「何でそこまで!!」と驚くほどに、Motivから一音符、一音符までも、themaのMotivから関連付けて構造式を引き出している学者先生達が多かったので、まだ、純な高校生の少年にしては、「まさか、そこ迄??」と、懐疑的にならざるを得なかったのです。

そういった疑問を、Schonbergは、明快に解いてくれました。
無意識に、偶然にMotivのpassageを曲の一部に使用することは、作曲家としては、非常に多く経験します。

それをSchonbergは作曲家が意識的に使用したMotivの断片と、無意識下で偶然に似てしまったMotivとを、明確に判断し区別しました。

日本人の音楽学者の非論理的な論理性を受け入れることが出来なかったまだ純心な高校生の時に抱いていた私の悩みが、Schonbergの論文によって、氷解した・・・という、覚えがあります。

という事で、頑迷な日本人の音楽学者に習って、「ここまで行くと、多分『こじつけ』ではないか?」という所迄、一応、その分析を載せておきます。

譜例:無意識下のahnlichkeit(類似性)

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