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ピンクの色は、basetoneになります。所謂、cantus firmus(定旋律)になります。
わざわざBachが、bowslurからこのピンクの音をハズしているのは、この音が(勿論、melodieの中の音であるとしても)cantus firmusの低音の定旋律である事を、示すためであります。ですから、このd→cis→e→dの音は、少し強調されて演奏されなければならないのですが、作曲理論を強調したこの演奏は、音楽家を対象とした、すこぶるmaniacな音楽であり、そういった対象を想定した演奏のための、bowslurなのです。
青の色で囲ったmelodieのsteigerungは最初は(fa→)la⇒si⇒miと、段階的に盛り上げて行きます。
勿論、当然、miの音を頂点として、bから最初のStollenのまとめのphraseに入り、2拍目の頭のdで、このStollenが終わります。という事で、このピンクの音dは、女性終止のdになる事も知っておいてください。
舞曲なのですからね。

2ndStollenの冒頭の
黄色の8分音符のc→b→aは、最初の小節の同じ黄色のf→e→dに呼応しています。
つまり、次のMotivへのauftaktになります。

2ndStollenの重要な要素(material)は、2小節単位に表れるLeitmotiv(導き音=導音ではありませんよ!!)ここでは
緑色に囲っていますが、b⇒b→a⇒g⇒fとBassfuhrung(bassの導き音)が続きます。
5小節目からのSequenzは、本当は2小節単位ではなく、5度のSequenz(quint=Zirkus五度圏)によります。
つまり、B⇒E⇒A⇒D⇒Gに至る五度圏です。次のGからFの進行はabkurzung(短縮型)になります。

つまり、Bachの書いているslurをそのまま活かして演奏すると、ここで説明したような音楽理論上の進行を、分かり易く、強調し、説明的に演奏する事になるのです。

と言うか、このBachの書いたbowslurのままに演奏すると、そのBachの作曲理論の説明を、演奏でする事にもなるのです。

つまり、Bachのbowslurは、baroque時代の不合理なeccentric(エキセントリック=奇妙な)な時代様式による演奏・・という意味ではなく、非常に作曲家的な発想で、professionalな弟子達や、一部の専門家を対象にして書かれた、自分の作曲様式へのappealでもあったのです。

逆に、こんにちの解釈の方が、そういった作曲上の理論的な意味合いを取り去って、単なる嗜好品としての音楽として、分かり易く、聞き取り易い、一般大衆に向けてのappealになっているのです。
だから、作曲法の解説の部分を取り去って、無難なarticulationやbowslurで演奏するのが主流になってしまっているのですよ。
私が何時も主張している、
「時代は必ずしも改良を重ねて来た分けではない」という原理です。
その違いが分からないと、この時代のslurの意味合いや、その基本の演奏法は、永遠に分からないのですよ。


     

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