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当然、このbowslurは、演奏のためのslurではなく、作曲技法を示すslurなのだから、弦楽器だけではなく、CembaloやOrganの場合にも、全く同じようなslurが書いてある場合が殆どなのです。



チョッと、話を脱線させて、Cembaloの曲で、説明をしてみましょう。

BachのFrance組曲のW番の譜例です。
baroque時代から、古典派の時代迄、基本的には、slurは弦楽器も鍵盤楽器も全く同じbowslurを用います。
だから、このCembaloの組曲で書かれたslurは、弦楽器のslurと同じslurが用いられています。

つまり、この時代のslurは拍節法を意味するslurなのです。
近現代のphraseを表すslurではありません。
それを知っているのか、知らないのかで、Bachの書いたslurが理解出来るかどうかが決まるのです。
1小節目ではslurが前の音符3っつに掛かっているのですが、2小節目の1拍目と2拍目では、後ろの3個に掛かっています。3拍目は、1小節目と同じthemaなので、当然、前の3個の音にslurが掛かっています。
repeatの後の13小節目、14小節目では、原典版ではslurが掛かっていないのですが、当然、14小節目は2小節目と同じ後ろの3個に掛かるslurになります。

別にどうでも良い事なのですが、では、何故themaは、gis→a→h迄しか、slurが掛かっていなくて、上のeの音には、slurが掛かっていないのでしょうか?それはeの音は保続音になって、melodieのlineは、e→fis→gisの音なので、上の保続音は、slurの対象にはならないからです。
melodieのlineを赤色で表して見ました。
上のeの音はostinatoの保続音になるので、緑色で表して見ました。
そうすると、Bachのslurの意図がよく見えて来ます。
但し、弦楽器とは違って、音のarticulationの表現がとても、難しいCembaloなので、弦楽器に比べて然程、articulationが書かれている分けではありません。この曲の左手のpartの動きも、basso continuoのcelloか、viola da gambaの想定なので、basso continuo独自のarticulationの動きをします。
つまり、legatoではなく、non legatoか、sostenutostaccatoで演奏するのが普通です。

余り、詳しく書いてしまうと、主客転倒しそうな感じですが、この時代というか、古典派の時代迄は、Cembaloやforte-pianoと、弦楽器の演奏のnuanceとの違いはありません。MozartのPianoのarticulationもviolinのarticulationも全く同じ弾き方になるのです。
ですから、どちらから攻めても同じなのですよ。


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