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その混同が、今日のように、trillのその音から(下から)上方にかかる現代のtrillを生み出す元となった。

という事で、MozartやHaydnの時代は、まだ作曲家達はtrillの奏法はtraditionalなtrillの原則を忠実に守って演奏していた。
(これらは当時の文献にしっかりと述べられている。)

しかし、古典派も後期のBeethovenの世代になると、trillの開始音はかなりあやふやなものになる。

という事で、Beethoven等は、trillの開始音が誤って奏されないように、開始音を前打音でわざわざ書き表す事もよく見受けられた。(注:2)

そうなると今度は、その前打音をaccentと間違えて演奏するピアニストが現れた。

困った堂々巡りである。

それをLisztは逆手にとって、trillをしながらcrescendoしていき、accentをしてdecrescendoするという奏法を作り出した。

笑えるね。
偉大な作曲家達は、演奏家達の誤りを、訂正するのにあたって、転んでもただでは起きないと言う事か!?

 

〔trillの数(beat)〕

trillはいつも感覚的に演奏される事が多い。

だから、どのようなtrillでも、目いっぱいの速度で痙攣的に演奏されてしまう。

だから私が「trillは数を決めて演奏してください。」というと、「えっ?!」と驚いた顔をされてしまう。

しかも、1曲のsonateの中で、trillが出てくるたびにtrillの速度が変わってしまう・・・と言う情けない事態の演奏もよくお目にかかる。
それも1曲の中の整合性ということでは芳しくは無い。

「trillの数には、上限と下限がある。寧ろ、trillの音符の数に選択権はないのだ・・といった方が良いのだ。」という事を、お話すると、やはり「えっ?!どうして??」と驚かれる人が多い。

Mozartの簡単なPianosonateの終止句のtrillを例にとってお話をしよう。
古典派の曲は古典派の様式で演奏される。・・・・という事で、後の曲も以下同文で、済ませられるからである。

 

生徒達がこのpassageで躓いたり、間違えたりする原因の殆どがtrillをあてずっぽうに弾くという事がその原因にある。

trillの数を決めて、正確に練習させると、驚く程、簡単に子供達は、正しく正確に、演奏出来る様になる。


先ほども書いたように、trillの数には上限と下限がある。
まず、一番少ない数は下の刻みの音符に対して、等倍(1:1)16beat(16分音符の場合)なのだが、これではtrillとは言えない。
また、ターンも、数が少ないので、ただのターンにもなり得ない。
それでも、練習としての、第一歩にはなる。徐々に音符の音価を増やしていくstepとしてのターンである。

この例は、あくまでもtrillの練習に入る前の、予備練習としての譜例である。

練習1 step1:等倍(1:1)の練習



 

 

 

 

練習2 step2:一番数の少ない(2:3の)trill(初心者には速度的に、これが限界か?)

Mozartのこのk.311のsonateはAllegro con spiritoなので、about四分音符が120ぐらいであろう。そうすると、32分音符は初心者の限界tempoになる。初心者、中級者ではこのtrillが限界である。

 

 

 

練習3 step3:早い等倍(1:2)のtrill

このstep3の1:2の倍速のtrillは指の回る上級者に於いてのみ可能である。
初心者や中級程度の生徒達にとっては、このstep3のrhythmを含めて、より早いtrillは現実的には演奏不能であろう。

そうなると、このsonateでのtrillの可能性はstep2の(2:3の)trill、一種類しかない・・・ということになる。


つまりbeatに関しては、選択権が無いのだよ。
こうやって、論理的に説明していくと、びっくりして驚いてしまう人達が多いのだが、実は、不思議な事なのだが、これが現実なのだよ。
いっぱい、trillがあるように、勘違いをしているのは、trillが出てくる度に、その都度、別のbeatで演奏しているからに、他ならない。要するに、情緒的、感情的、感覚的に演奏しているのに過ぎないのだよ。

 

よく見受けられる素人の間違いの例としては、指に任せて最初のtrillを弾くのだが、nachschlag(後打音)が入らなくなって、結局、躓いて弾けなくなってしまう。

参考  間違えたtrillの例

この曲のtempoでは、32分音符の速度では、初心者には音符が入らないので、step3のtrillは無理である。

それを強引に入れようとすると、結局、nachschlagが入らなくなって、躓いてしまって、上の譜面のようになってしまう。

 

という事で、このsonateで使用されているtrillは、全てのpassageに於いて、step2の2:3のtrillとなる。(勿論、指に自信がある人はこの限りではないが・・・。)

 

trillの数の整合性は終止(kadenz)のpassageだけではなく、下のような主題上のtrillも、終止のtrillとbeatを整合させなければならない。

譜例:7小節目のtrill

 

 










16分音符のtoriolenで全体のtrillを纏めてみようと思ったのだが、そうすると、nachschlagの音と繋がらないので、当然、次のように32分音符を混ぜて弾かなければならない。

という事で、上記の譜例のようになるのだが、これは途中でrhythmが変わるので、意外と難しい。

という事で、初心者は次のように演奏すると良い。

 

譜例:書かれたnachschlag(後打音)をtrillの中に含めて演奏する。

7小節目の4拍目の裏の16分音符は「書かれたnachschlag(後打音)」なので、実音として正確に16分音符にする必要は無い。





だから、当然、上記のような弾き方も間違えた弾き方ではない。

 

〔音楽大学の教授が言った不可思議な話〕

昔々、私が小学生の生徒に、trillの弾き方をMetronomでlessonしていたのだが、その時に子供の母親 (その母親も某有名音楽大学のピアノ科の出身者なのだが)が、顔を真っ赤にして「先生、trillに3連音のtrillはありませんよ!」と烈火の如く怒り出した。

あまりの勢いにたじたじとして、「まあ、練習ですから・・!」というと、「練習ですか?」と納得してその場は収まった。

で、彼女の尊敬する音楽大学の教授が何故、彼女に「3連音のtrillはない!」と言ったのか、不思議に思って色々と調べたのだが、内外の文献では、そういった記述はとうとう見出せなかった。
また当然、3連音のtrillを、不可と指導する先生も、私の前にはいなかった。

寧ろ、ヘルムート・バルヒャやフランスのチェンバリスト達のように遅いbeatからだんだん早くしてまた遅くするような膨らましを表す(messa di voceの奏法)装飾音をふんだんに使用したり、ブゾーニー版のように、最初から3連音指定している版も多く見受けられる。

 

では何故、その音楽大学の教授はそういう風に勘違いをしてしまったのか?
勿論、私はその先生ではないので、本当の事は分からないのだが、以下は私なりの結論なのだが、・・・・・  

昔々、私がヴァイオリンを指導していた時に、ヴァイオリンの生徒は必ず「trillとvibratoのbeatが同じである」という事を気がついた。

つまり、ヴァイオリンの初心者にとっては、vibratoは本当に3連音のbeatはないのだよ。

手首を前後に振るだけなので、前と後ろ、しかないのだよ。

だから、ヴァイオリン(弦楽器)という楽器では、3連音を弾くという事は、難しい。弓を3連音に合わせて、up、downさせれば、可能かもしれないが、それは早いテンポでは無理である。
それにヴァイオリンの場合には、下の音はshiftしたままでPianoのように打ち直しはしないので、幾ら上の音をしっかりと打鍵したとしても、下の音は如何ともしがたい。
という事で、ヴァイオリンのtrillの3連音は基本的には(物理的には)無理である。

それでも、私はヴァイオリンでも、3連音のtrillをよくやらせるのだが、確かにそれはより高度な技術を追求している上級生で無いと出来ない超高級難度の練習である。(それも、訓練の一貫としての話であって、実際の演奏会でそういう風に演奏させた事は一度もない。)

 

しかし、Pianoの場合には、2の倍数のtrillでは、上か下かの音が(無意識に)強くなってしまって、すこぶる、バランスが悪い。
だから、3連音で練習させると、上の音と下の音の粒が揃って、trillがとても美しくなる。
上の音と下の音が同じ強さでバランスが良くなるからである。
と言う事で、Pianoの場合には、演奏会でも、3連音のtrillerはよく使用する。
その方が演奏効果がある場合が多いからである。

という事で、練習としては、ヴァイオリンにもおなじ練習をさせるのだよ。

勿論、3連音でtrillを弾かせるには、もう一つの重要な意味もある。

つまり、Pianoが左手でAlberti-bassを演奏している場合には、そのAlberti-bassの倍数のbeatがtrillの音価であるとすれば、人はその音を、trillとしてではなく、実際のmelodieの音として聞いてしまうのだよ。

ゆっくりした楽章で伴奏の音符一個に対して4個ぐらいのtrillであればtrillとして聞こえるのだが、単なる2倍速ではtrillに聞かせるのは難しい。

3連音なら、不等倍の音として聞くので、trillがゆっくりしたテンポであっても、ちゃんとtrillに聞いてくれるから、人間の耳は何とも不思議である。











                                                                    
                                     

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