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その中でも、最も重要な出版作品は、おそらく《ヴァイオリンの技芸Arte del violino 》作品3(1733年出版)と、12のヴァイオリン協奏曲であろう。
保守的なローマ楽派の教育を受けたにもかかわらず、革新的なヴェネツィア楽派のスタイルを取り入れ、時代の先端を行く優れた「協奏曲」(合奏協奏曲)や「室内楽曲」(ヴァイオリン・ソナタやフルートソナタ)などを残している。
 彼の演奏は、とくにダブルストップ(重音奏法:複数の音を同時に発生させる演奏技法)や特殊な調弦法を用いて、甘美なカンタービレ(歌うようにの意)の中に高度な演奏技巧を盛り込んでおり、後のパガニーニに大きな影響を与えた。
Locatelli のコンチェルトの特徴は、長大なカデンツァとして書かれている、大変な高度な技巧を必要とするカプリッチョの楽章が挿入されている。

しかし、この楽章をカデンツと呼ぶには、余りにも長大で、あたかもviolinの練習曲のようなので、現在、このカプリチョの楽章は、コンチェルトから切り離して、演奏するのが通例となっている。

高度な演奏技術を要するとともに音楽性豊かなカプリッチョは,古典派以後の近代バイオリン協奏曲のカデンツァを予感させるものである。

Locatelli はヴァイオリン・ソナタやトリオ・ソナタ、合奏協奏曲のほかに、《フルート・ソナタ集》作品2も残した。
 

Locatelli のcapriceを楽譜通りに演奏するのは、現実的ではない。
勿論、プロの楽団の演奏でも、楽譜通りに演奏する団体はないと思う。
(というか、Locatelli の演奏自体が、余りprogramに乗る事はないからである。)

本来的には、baroque時代には、今日我々が耳にするような元の曲のthemaを即興風に発展展開させる様式のkadenzの形はまだ存在していない。

baroque時代の曲の一部に見受けられるkadenzのような部分は、episodeや(ドイツ語ではeingangと呼ばれる、極めて短な、melodieとmelodieを繋ぐ、繋ぎのような、ものである。

Locatelli の曲に見受けられるような大規模なcapriceが、付随した音楽だとは言っても、今日の我々が見知っているkadenzと呼ぶには、capriceは基本的に異質のものであり、Etude(練習曲)のように単純な音型(figur)を繰り返すfiguration形式であり、曲に付随するkadenzとは、言う事は難しい。

こんにち我々が耳にし、目にする曲のthemaからの即興的な発展展開的な作曲法は、古典派の時代に入ってから確立したkadenz styleの様式である。

通常は、Locatelli のkadenz(所謂、caprice)は、上記に掲載されている楽譜(このPageはcapriceの一部であり、本当は2Page、3Pageに及ぶ事も多い。)から、適宜に抜粋されて演奏されている事の方が多い。(全体を演奏すると大変な長さになるからだ。)
しかも、曲の本来の要素とは無関係の独立したthemaになる。
だから、まだ、我々の言っているkadenzとしてのimageはこのcapriceにはない。
あたかも、U楽章、W楽章のように、独立した楽章と考えても、その曲のimageは異質である。


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