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Mozartのトルコ行進曲の前打音について

appoggiaturaとacciaccatura

阿呆らしくって、お話にならない・・笑い話として、ではあるが・・・・・


通常版のMozartのトルコ行進曲の譜面は上記のように、印刷されているのですが、原典版に限らず、多くの校訂版では、冒頭の右手のfigurationは、8分音符に装飾音が付加された型で、下記の譜面のように書かれています。
(また、この楽譜の譜例では、装飾音が短前打音になっているが、本来の譜面は長前打音でなければなりません。)
譜例:1

もし上記の譜面が、長前打音ならば、でMozartの書いた本来の譜面であります。

もし、上記の譜面が長前打音とした場合には、二つの譜面は、全く同じものであり、何の問題もないのですが、それを敢えて、短前打音(acciaccatura=アポジャテゥーラ)として、書いてあるだけでなく、そのように演奏しているのならば、それは、装飾音の意味が全く分かっていない、無知のなせる技であると言えます。勿論、それがamateurのPianoの演奏家ならば、目くじらを立てることもないのですが、proのpianistと呼ばれている人達ですら、そのように演奏する人が多い事には、辟易させられます。


その間違えた装飾音による演奏
譜例:2



こういった誤った演奏に始めて出会ったのは、昔々、私がPianoを習い始めたばかりの高校生の頃、故郷の長崎で、小遣いを叩いて買ったウィルヘルム ケンプという名演奏家の弾いたレコードが、この装飾音を短前打音(acciaccatura=アッチャカテゥーラ)と勘違いをして弾いていた。



その当時出版されたC.P.E.Bachの「正しいPiano(clavecin)奏法」という本に、appoggiaturaとacciaccaturaの違いは既に書かれていたのだが、勿論、それはbaroque奏法のための特殊な教則本であったし、ケンプがそれを読んでいるとは思えなかったので、「まあ、ケンプはBeethoven弾きなので仕方がないか??」と、諦めていたし、50年も前の私が未だに高校生であり、音大生であった頃の時代は、古い古典派の奏法や、baroque時代の通奏低音の奏法は、一般には未だ知られていなかった頃の話で、やっとVivaldiの「四季」が世界に知られるようになった頃の時代なので、「まあ間違えて弾いたとしても仕方がないか??」と思っていたのだが、何と、時は過ぎて、今日(2014年)のNHKのテレビのリサイタルで、でも、Mozartのこの曲を、短前打音と勘違いして、eccentric(エキセントリック=奇妙に)に演奏している日本人のピアニスト(女性なので、ピアニスティンが正しいのだけど・・)がいたのには、呆れてしまった。
譜例:3




こういった人達には、論理的な時代考証よりも、師匠にどう習ったのか・・が、唯一大切なのだよ。
正に、儒教の教育で、家元制の権化だよね。
アハッ!ハッ!!

譜例:4
間違えた弾き方:

でも、これは未だ、拍頭を合わせて弾く、・・という古典派の奏法を取り入れているのだから、まだましかも知れない。
これがもっと、酷くなると・・・

近現代風の間違えた装飾音の弾き方になる。
譜例:5




装飾音を拍頭よりも、前に出して、実音を拍に合わせて弾く奏法なのだが、Beyer教則本でも、この両方を練習するようになっている。
Beethoven以降の時代には、装飾音を拍の前に出して演奏するのが、一般的になって来たので、教室でも、そのように指導するのだが、その分かれ目は、MozartとBeethovenの時代である。
だから、本来的には、Mozart迄は、装飾音であったとしても、拍頭に合わせて演奏するのが普通なのだが、しかし、殆どの演奏家や指導者の場合には、この装飾音を拍頭の前に出す奏法を良しとするので、この演奏を聞いても違和感を持つ人は、まず、いないだろう。
「赤信号 皆で渡れば怖くない」・・・・ちゅう事かいな???

勿論、当たり前の事で、単なる参考に過ぎないのだが、正しい弾き方は、次のように演奏する。
譜例:6
正しい弾き方

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