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池袋の地下のMunchenというビヤー・ホールには、大型の大道パイプオルガンがあって、オーナーのお爺さんが、色々と興に任せて弾いてくれましたが、寄る歳なみで、ビヤー・ホールもたたんでしまいました。
残念です。
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アコーディオンを弾いているお爺さんの後ろは、大型のパイプオルガンの演奏する部分ですが、写真が見つかったら、オルガンの全貌を掲載出来ると思います。

先程も書いたように、私が日本に帰国した当時はまだまだパイプ・オルガンは珍しい時代でした。
cantataやbaroqueorchestraで演奏活動をしようと、考えていた私にとっては、Cembaloの奏法の出来る生徒を育てたり、正しいオルガンの演奏法が出来るCembalistを作る事は、私の夢でもあり、そのためには、Cembaloや、ポジティーフのパイプ・オルガンを所有することは、必須の条件でした。
普通にヨーロッパ的に考えれば、何処かの教会に所属して、その教会のパイプオルガンを私物化して・・・・と、なるのが、当たり前なのでしょうが、そのカトリックの教会にさえ、パイプオルガンはなかったのですよ。何せ、一億円以上はしたのでね。
それにメンテナンス代が、年間200万ぐらいは必要なのですよ。
という事で、当時はまだ、パイプオルガンの代用品である黒田オルガンが、主流だったのです。
しかし、それでも500万以上はするのですから。
しかし電子楽器ならば、メンテナンス代はかからないのでね。
という事で、小さな教会や個人の家は、殆どが黒田オルガンだったのです。
考えてみれば、黒田オルガンならば、ポジティーフと、そんなに値段は変わらないですよね。
問題は設置の場所と重さの問題もあるのですよ。
という事で、黒田オルガンにしても、ポジティーフ・オルガンにしても、所謂、市販のオルガンでは、帯、襷で、しかしながら、そこらの安っぽいキーボードで代用するというのも、問題ありなので、私としても、それなりに悩んではいたのですよ。
ある時に、全くの偶然から、黒田オルガンの工房の人達と友達になれたので、ポジティーフとポルタティーフの双方の機能を持つハイブリットのオルガンを作る事にしました。
黒田オルガンの工房の人達は、自社の電子オルガンだけを作っている分けではありません。
普段は本物のパイプ・オルガンを組み立てているのですよ。
勿論、パイプは国産では作れないので、ドイツのクライスや他の有名なオルガンの会社から取り寄せて、組立をします。
パイプ・オルガンの組立はまるで、家を作っているようなものですからね。
その偶然とは、知り合いの医者が板橋にいたので、そこへ診てもらいに行ったついでに、なんとなく、散歩をしながら練馬に向かって、歩いていると、偶然、オルガンの工房を見つけました。
ぶかぶかオルガンや、キーボードではなく、本物のパイプオルガンの工房ですよ。
これはしめた!!・・・と、色々な私のアイディアの話をしたりして、その場で、社長や職人の人達と意気投合して、急遽、オルガンを作って貰う事になったのです。
という事で、私の考案したパイプオルガンは、標準の8feet、一列だけしかないのですが、20名程度の少人数のバロック・オーケストラのbasso continuo用のオルガンとしては、8feet一列で充分なのです。
但し、8feetでも、標準の長さだと、55鍵としても一番下の音域の4,5本は3meter近くの長さになってしまいます。そうすると、パイプは鉛と鈴の合金なので、大変な重さになってしまいます。
ちょうど、オルガンのお話が進む直前に、科学技術庁からの依頼で有名な大学教授達やその道の専門家達が集まって笛の話を小冊子に書く事になっていたのですが、笛の科学やその他の理論が書ける人がいなくって、音楽図書館から私に依頼が回ってきたのです。かなり専門的な本で市販されるものではなく、学校や図書館、官公庁に配布される小冊子で、物理の教授達に混じって、笛のトーンホールの数値等や気柱の話を面白おかしく書いていました。
その時に、理論気柱というのがあって、その振幅の丁度真ん中の所で切ると音はその長さの2倍の音が出るという話を書いていたばかりでした。
という事で、管に全部蓋を被せてしまって、3meter近い管を半分の長さにしてしまいました。これで、重さも、全体のサイズも半分になったわけです。勿論、鍵盤の長さは、baroque楽器同様の長さで変わらないので、横幅は、現代のPianoやオルガンよりも少し狭いものになります。Cembalo等もbaroque楽器の長さは同じです。
次には、巨大なパイプは最低音のoctaveなのです。
だから、その巨大octaveのパイプを右と左に分けて、セパレート出来るようにしました。オルガンを乗せる台も入れれば、4つのパーツに分解されるのですよ。しかも、箱にしっかりと固定されているので、運ぶ時には、車に横に寝せて運びます。
パイプを寝せる・・・と言った時には、流石に、信じられない・・という顔をしていましたがね??!!!
私のパイプ・オルガンのconceptは、音量的には500名ぐらいまでの会場の広さを対象としていて、baroqueのorchestra、所謂、12名程度から、30名ぐらいのorchestraを想定して、音量を測っています。日本の殆どの小ホール程度の大きさなら問題なく、basso
continuoのオルガンとしては、充分な音量を持っていますし、パイプ自体は鉛と鈴の合金(所謂、半田なので)金管なのですが、金管系の音、金管特有の輝かしい音ではなくって、弦楽器によく溶け込むように、recorder(リコーダー)系の柔らかな木管の音にしています。
但し、オーケストラや室内楽の曲を想定して作られているので、soloのviolinには強すぎるかもしれません。triosonateからは、音量的にも大丈夫だと思います。
pitchはオーケストラの演奏会を対象としてあるので、baroquepitchではなく、通常の演奏会のpitchである441サイクルです。(441サイクルという教育用の国際標準高度や、演奏会高度の442サイクルから443サイクルまで、曖昧なpitchにする事で、対応出来るようにしてあります。)
オーケストラが435サイクル以下の、baroquepitchで演奏する事は、よっぽどの例外的な公演を除いては、あまり現実的ではないので、実用性を重視して、敢えてbaroquepitchは採用していません。
ふいごは、勿論、古式豊かな手回しではありません。
結構強力なモーターを回す事で、かなりの分厚い和音でも、音がぶれないようにしてあります。
強力なモーターで風を送り、弁で風量を調整し、pitchのコントロールをしますが、困った事に、東日本と西日本では、電圧が違います。
そこも弁で、風圧の調整をさせる事で441サイクルをキープ出来るように、しましたので、西日本にもこの楽器を持って行く事が可能なのです。
かなり、強力なモーターを黒田オルガンの人達に無理を言ってお願いしたのは、イタリアやドイツ、それからフランスの教会にも、オルガニスティンの竹前光子さんのお供で、レギスターの操作をするというお手伝いで演奏旅行のお供をしたのですが、イタリアの教会音楽学校や、古い歴史的な教会での演奏では、オルガンの肺、所謂、空気の圧力が足りなくって、Max
Regerのオルガン曲やOlivier Messiaenのような近現代の、大オルガンを想定した曲では、息が足りなくなってしまい音がフニャフニャ、フラフラとして、音楽にならなかった事がよくあったからです。
どんなバロックの名器と言われるオルガンでも、バロック時代の音楽を対象として、作られているオルガンでは現代曲の演奏は出来ないのです。
だからと言っても、無意味にモーターを大きくしたら、当然肺も大きくなって、重量も増して来て、それこそポーターブル(Portativ)なオルガンを作るという本来の意味がなくなってしまいます。
そこの兼ね合いは難しい!!
それにしても、パイプオルガンの1000年の歴史の中でも、パイプをパーツに分解して、ばらすという発想を誰もしなかったのだよね。
技術的には随分昔でも、可能だと思ったけれど、それこそ、コロンブスの卵なのだよね。
不思議だ!!
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