揺らしの話U

Valse Menuett等の3拍子

 

ValseやMenuettは言うまでもなく、3拍子の舞曲であり、そのrhythmはイチ、ニ、サンと強拍、弱拍、弱拍と、実に文部省的に習って来て、ピアノを学び始めた高校生の頃から音楽大学時代まで、それを疑う事はなかった。
(ちなみに、私はヨワイ**歳なので、その頃は、おおよそ、1960年から1967年。私は腎臓結核の手術で、1年間高校を休学しているので、大学卒業時は1968年頃になると思われる。)

この私がピアノを習い始めた頃の話は、私の得意とする無駄話のように思われるかもしれないが、実はここで、この話をするのは決して無駄話ではない。後で、結構、重要な意味を持って来る。

 

私が3拍子に対して、色々な興味を持つようになったのは、小学生の時に叔父に分数のヴァイオリンを買ってもらって、その楽器を弾くために、Hohmann教則本を買ってからである。Hohmann教則本では、比較初めの方に(予備練習を省いて、数えると10曲目ぐらいで)、もう3拍子が出てくる。

勿論、Beyer教則本では、3拍子はもっと早く出てくる。
片手の予備練習の段階で、7曲目にはもう3拍子が登場する。
当然、ピアノでは、楽器の機構上、鍵盤を押せば音が出るので、あまり3拍子という拍子の難しさを意識として感じる事はないだろう。

しかし、ヴァイオリンの場合には、強拍を遅い弓(弓速)で、弱拍を早い弓で弾かなければならないので、初心者には強弱が逆転してしまうのだ。
つまり、強弱を反対に弾いてしまうか、弓の弾き始めの位置が変わって行くか?何れにしても、弦楽器にとっては非常に難しい。

譜例:Hohmann教則本の初めての3拍子の曲

初心者がこの曲を弾くと、次のように3拍目にaccentがついたような感じになってしまう。

譜例:3拍子の間違えた弾き方(強弱)

この曲を初心者が弾くと、1,2拍目の2分音符の長い弓に対して、3拍目は4分音符で弓を全部戻さなければならないので、左記のように、3拍目が突いたように、強くaccent気味になってしまう。少し強めに押さえた1,2拍目に対して、3拍目は少し浮かし気味に弓を弾かないと、3拍目が強くなってしまう。上級者では、最初の音だけをしっかり目に弾いて、後を空中bowを使用する場合もある。(これは結構、高等technicだけれども、殆どのヨーロッパの人達はそういう風に演奏している。)



余談ではあるが、初歩のピアノの練習曲の場合にも、一見Waltzやlaendlerのような練習課題がある。特に80番、81番、82番がそういった舞曲風な課題である。

譜例:Beyer教則本80番

 

 

 

 

 

 

但し、譜例のように、Beyerは左手のarticulationをleggieroと指定している。

だから、当然、その3曲の左手は次の譜例のように3音ともstaccatoで演奏されなければならない。

譜例:A 左手の正しい弾き方

 

 

 

 

 

しかし、実際には、Waltzのように、次のように弾かれる事が多い。

譜例:B Waltz風に演奏した例:

 

 

 

 

間違えた演奏だとしても、これまでは何とか許容範囲である(???)。 
しかし、日本人の感覚では次のように弾く人が多い。これはいただけない。

譜例:C 日本人独特のジンタの香りのする弾き方:(ジンタ⇒サーカスなどで演奏される音楽、ジン、タッツ、ター、 ジン、タッツ、ターと聞こえるから。)

ジン、タッツ、ターと、3拍目を異様に伸ばして弾くのが、日本人の特徴である。 





日本の伝統音楽の中には3拍子の曲は1曲もない。日本人の遺伝子の中には3拍子は含まれていないのである。雅楽は本来は日本の音楽ではないのだが、その雅楽にすら、例外的に5拍子の曲はあるのだが、3拍子の曲はない。それこそ例外中の例外で、3拍子か2拍子かがよく分からない曲が1曲だけある。

しかし、ヨーロッパの人達は生まれた時から、3拍子が基本なのだ。

何も、三位一体のキリスト教を引き合いに出さなくても、ヨーロッパ人にとっては完全は3なのだ。
キリスト教では、完全は3で表して、円は完全なのである。4拍子や2拍子は不完全なので、欠けた円という事で、Cや¢なのだ。Beethovenの英雄SymphonieやMozartの魔笛のEs Dur (cから3番目で♭が3っつで)3和音を3回打ち鳴らすと言うのは、これでもか!と言わんばかりの3の連続なのだよね。それぐらい3にこだわっているという話・・・・。
難しい事は言わなくても、ようするに、生まれた時から、身近にdanceがあって、そのdanceで3拍子の感覚を培ってくるのだ。だから曰く、3拍子で生まれ、育ってきたのだよ。だから、3拍目を早い弓で抜いて、演奏するというのは、子供の頃からの身に付いた感性なのだ。

歴史的に3拍子を全く持たない日本人とは、所詮、感覚違うのだよ。

 

今回は、八千代の生涯学習プラザでおもちゃのシンフォニーと美しき青きドナウというWaltzを演奏する。

青きドナウはWaltzだし、おもちゃのシンフォニーのU楽章はMenuettだ。

さあ、困った!教えても、教えても、舞曲の3拍子のrhythmが取れない。

舞曲の3拍子は、stepの関係で、基本的に2拍子になるのだ、という事が分からないのだよ。

 

しかし、まあ、私達も、音楽大学等で学ぶ時には、舞曲であろうと、シリアスな曲であろうと、基本の3拍子を学ぶ。

参考例: 3拍子の指揮

指揮法 マックス・ルードルフ著 音楽の友社刊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、これでは、舞曲は踊れないんだな!?

という事で、私はこういう風に指揮をしている。

参考例:2,3拍を詰めて取るTakt

 

 

 

 

さて、ここで、baroquedanceの話をしよう。baroque時代の舞曲の独特の「揺らし」は古典派の時代には、宮廷の衰退と共に、もう早々と忘れ去られる事になった。 

長い忘却の時を過ぎて、再びbaroquedanceが日の目を見るようになるのは、何と、1960年も後半になって、(驚く事に、baroque楽器の復刻や作曲家達の再発見の時期とも重なります。)baroquedanceが再現されるようになるのです。つまり、最初の無駄話に戻って、私が音楽大学の学生であった頃にやっと、そういった研究がなされるようになったのです。

では、如何して、baroquedanceが復元されるようになったのか?それは、choreographyと呼ばれる当時の振り付けのstepを克明に表記した文献が多数発見されるようになったからです。

私の留学中に買い求めたbaroquedanceのchoreographyの本から幾つか参考までに、掲載しておきます。

参考例: 集団の演舞を表しているchoreography、難しい!!

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