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一番奥の万年筆のペン先は、文字を書いたり、縦の線を書いたりするための非常に細いペン先になります。

手前の2本は、同じメーカーの同じ万年筆なのですが、ペン先の当たりが微妙に違っていて、五線紙の間のサイズで使い分けています。

一番手前のが、少し太めで、五線紙の間が細いものは、真ん中の1本を使用します。

通常は、私が音符を手書きする時には、この3本の万年筆を使い分けています。

この3本(同じペンでスペアーのペンもあるので、本当はこの3本ではなく、スペアーのペンは無数にありますが、普段使いの写譜ペンのセットはこれだけだ・・・、という意味です。)の写譜用の万年筆の、もう一つの特筆すべき点(留意点、或いはこだわり)は、インクがスポイト式で、カートリッジ式ではない、と言う事です。



その理由は、書き心地や、利便性、インクの補充の簡単さから考えると、圧倒的にスペアー・インクのカートリッジ式の万年筆の方が良いに決まっていますが、しかし、それでも、スポイト式を採用している理由は、楽譜を書く時に使用するインクが、ドイツ留学時代から、延々と使用している、ペリカンのリアル・ブラックというインクのためなのです。

日本の黒インクは、ドイツのインクに比べてみて、押しなべて黒の色が薄く、雑味の色が多く、美しくないので、コピーには向きません。
特に、カートリッジ式の場合には、保存でインクが固まらないように、インクが薄く、楽譜を書くには向きません。

それに対して、ペリカンのリアル・ブラックは、全音の編集長が、「印刷用に使用するインクのようだ!」と褒めているように、万年筆のインクとは思えない、レタリング用のインクと見間違うほどの、美しい色の素晴らしいインクですが、欠点は、乾かない事です。

それどころか、半年ぐらいしても、手で擦ると滲んでしまう程、乾きが悪いのです。

ですから、楽譜の払いには、かなり注意しないと、直ぐに、インクが滲んで汚くなってしまいます。

それ以上に、このペリカンのインクは瓶から直接、浸けて書くには問題はないのですが、万年筆の場合には、直ぐに詰まって、万年筆が使用出来なくなってしまって、修理に大変な事になってしまいます。
という事で、私の写譜用のスポイト式の万年筆は、全て、中の芯が抜いてあります。

長崎の万年筆の専門店(万年筆の病院)で、事情を説明して、万年筆の軸の芯を抜いてもらいました。
それからは詰まることはありません。
万年筆のペン先の当たりも、音符の頭に合わせて、インクがかすれないように、斜めにカットしてあります。



万年筆は、ずっと使い続けていると、その人に自然に馴染んできます。それをアタリが出るという言い方をします。violin等とも同じですが、道具はみんなそうですよね。

日本に帰ってから、 或る時、長崎に里帰りしている時に、行きつけの万年筆屋さん(先程の万年筆の病院というお店です。)にレア物の(日本に2,3本しか入っていなくって、作家さんの愛用の)、モンブランが売ってあったので、随分悩んで(丸1年ぐらいかな??)買いました。

私の書きグセの当たりの調整やインクの調整も、そこで丁寧にやって貰いました。
しかし、普段使いで持ち歩くには、チョッと大きすぎて無理です。

と言う事で、「写譜ペンにしよう!」と、思いついたのですが、長崎迄、直ぐに里帰りする予定が全くなかったので、当時、浜松町にあったモンブランの直属のメンテナンスのお店があるのを思い出して、モンブランの認定の技術者だという事を、間に受けて、ペン先の当りを写譜ペンに変えようと思ったのが、Pech(災難)の付き始めでした。

ペン先が太いので、音符の頭を書く時に、ペンを真横にして書くと、インクが途切れてしまいます。
だから、写譜ペンの場合には、ペン先のカットを、少し、斜めにカットしてあるのですが、肝心要のそこの所を、技術者のオジさんが「ペンを横にして書く人は、音楽家ではなく、音符を書く素人だよ!」とか「そんな書き方は邪道だ!」とか、文句を言ってきました。
「音符を書く時だって、ペンは真っ直ぐに書かなければならない。」
「プロの作曲家は、皆そう書いている」と、私に対して、見下した素人呼ばわりして馬鹿にして、直してくれないのです。

ホント、頭に来たね!!

「素人呼ばわりされた事??」
「直してくれなかった事??」
・・・その、両方かな??!!

・・・と言う事で、大枚を叩いて、買ったモンブランは、大枚を払って、メンテして貰った結果、お釈迦になってしまいました。

普段使いに戻そうと思っても、普通に文字を書いても、時々、かすれてしまうのですよ。

その事すら、筆圧の問題まで、「正しい万年筆の書き方を知らないから・・!!」と言われてしまいました。

モンブランの高級万年筆を使用するには、それなりの万年筆の使い方を勉強してからでないと、ダメなのだそうです。

ホントかね!!

知るか・・・!!!

・・・・と言う事で、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の始まりです。
・・・と言うよりも、モンブランの技術の人を写譜の(音符の)書きグセの話で大喧嘩してしまったので、本当は、感情的には、そのモンブランの万年筆を、その技術者のおじさんに投げつけて帰って来ようかとまで思って、怒り捲くって(怒り心頭に発して)いたので、それ以来、超、高価なそのレア物のモンブランは、二度と日の目を見ることもなく、机の中で永眠しています。

モンブランには何の罪もないのにね・・・、でも、使えなくなってしまったのよ。

私に初めてのモンブランの万年筆は、高校の入学祝いに、伯父さんが自分の愛用の万年筆をプレゼントしてくれました。一度もそんな事をしてくれた事はない伯父さんが、どういうわけか、初めて、・・・で、最後でしたが、プレゼントしてくれました。
その万年筆は、ドイツ留学に着いて行きました。
ドイツから伯父さんが買ってきて、私がドイツへ持って帰ったのです。
私が日本に帰国する時には、もう日本には帰りたくないようだったので、ドイツに置いてきました。


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