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間違えた弾き方と言っても、此処まで来ると悲惨なものです。

この誤りは、単なるslurの読み忘れ、といったような(譜読みの間違い)ではなく、「ファの音とソの音が同一声部上にある」という勘違いから起こるものです。

正しくは、7小節目のファの音はTieでミレ ミとなって、付点2分音符+Tieのファの音で終わる。当たり前の事なのだが、言葉で説明すると複雑になってしまうので、楽譜を添付します。

譜例:




@の説明: Mozartの時代ではピアノの曲にslurが書かれる事は、あまりなく、書かれたとしても、弦楽器独特のbowingによる表情を表すための、bowslurで書かれていました。作曲の主流が弦楽器からピアノに移ってくるに従って、古典派の後半になると、melodieのフレーズを表すための、phraseslurが少しずつ書かれるようになって来ました。古典的な書法でphraseを書くと次のようになります。

譜例: bow slurによるarticulationの例

上記のように、古典派の最後の時代、MozartやHaydn、Beethovenの後期の時代では、forte-pianoの発達と共に、音楽の主流がヴァイオリンからピアノに移ってきて、当然、slurの書法もピアノのphraseslurが主流となってきたのである。こういった過渡期の時代の作品では、当然その書法の混同が見受けられる。


テキスト ボックス: 譜例:膨らまし

Bはその顕著な例である。書いてあるslurはphraseのslurであって、古典的なbowslurでかくとすれば、点線のslurのようになる。1拍目のファの音はブレスをするために少し短めに切ってレシ♭と弾いてもよい。勿論、楽譜通りに弾いてもよいのだが、その場合には、「膨らまし」を忘れないようにしなければなりません。

 

テキスト ボックス: 譜例:19小節目から22小節目までの
収めのslurとslur+staccatoの例:
Cは最後の音にstaccato記号が付いているか否かの問題である。






音楽を指導する先生方でその意味を知っている先生達は非常に少ない。

これもHaydnの時代には既に確立されていた、室内楽やオーケストラの奏法からから来る「演奏表現のためのarticulation」であるからである。

MozartやHaydnというわけではなく、一般の古典派の作曲家達はmelodie(phrase)の終止の時にはstaccatoは使用しない。

つまり「収め」としての感じを出さなければならないので、「手首の抜き」で演奏しなければならないのですが、前の音と同じようにstaccatoで弾かせる先生が多く、作曲家が折角細かい演奏まで配慮して書いたのにかかわらず、「収め」の表現が生かされなくって、はなはだ困っています。

収めの記譜の例は、この曲では、19小節目から22小節目までの譜例が、子供達にとって、分かりやすくてよいように思います。

注1: の↓の音(2小節目の頭の音)だけstaccatoが付いていないのだが、それはphraseの終わりの音で、「収めの音」になるからです。

そこはあくまでmelodieの終わりの音として演奏されなければならない。

これが古典派の演奏スタイルの定石である。

 

次は12小節目の3拍目(所謂、13小節目のauftakt)であるが、拍節法(Agogik)、(拍子の感じ方)がいい加減なために、子供が1小節の中で1拍多く弾いていても、気づかない先生がいる。

・・・・本当にいるんだよ!!

 

 

譜例:12小節から16小節目までの拍を見失った演奏の例

何故、子供達はこんな簡単なpassageで拍子を見失ってしまうのでしょうか?

その理由は子供達が、Agogikの変化を視覚的に分かっていないせいなのです。

次の例を書いて見ました。

 

譜例:12小節から16小節目のAgogikに強勢を入れた楽譜

一見すると、いかにも単純に見える拍節も、Agogikをつけて、改めて見てみると、3拍子のブロック×2回、4拍子のブロックが1回、2拍子のブロックが1回と、拍節が結構複雑に、めまぐるしく変化しているのがわかります。

その拍節の変化を理解しないまま、感覚的に、感情的に弾いていると、上述の「誤りの演奏の例」のように、弾いてる内に、子供達は自分が何拍子の曲を弾いているのかさえ、分からなくなってしまうのです。

でも、指導者はその根本的な原因を分かっていないと、子供達が何故、拍が数えられなくなってしまうのか、という理由が分からない。

だから頭ごなしに子供を叱るだけで、子供のmissを訂正、指導する事は出来ないのです。

 

[broken-Akkordtp和音の指使い]

23小節目のauftaktからのpedalingについては、2〜3ページに既に解説をしてる通りである。

しかし同じ小節の右手の16分音符の和音の指使いを間違えている生徒が多いのは、問題外である。

 

譜例:23小節目から26小節にかけての練習法

和音で正しい指使いで取れるかをcheckしてから、ブロークン・アッコードで練習させると、頭と指が一致するようになる。

譜例:broken-Akkordの指使い

 

25小節目とか、37小節目の装飾音の入りが、装飾音の音を取るために拍のタイミングが遅れている。(というか、装飾音から後のtempoを全く別のtempoで弾く子供が多い。)

現代的な奏法であったとしても、古典的な奏法であったとしても、拍子の中に装飾音はちゃんと収まらなければならない。

指導者は、その点を注意深く指導しなければならない。

譜例:

このpassageは基本的な単純な「ブロック(和音)の指使い」でよいので、指使いをつける事は、さして難しい事ではない。しかし、2小節目後半からの、5-4-2-の指使いは、間違えているとはいわないが、問題である。私が指導する場合には、こういうpassageでは幾つかの指使いを作る事にしている。(それを替え指という。)

1例としては、1小節目、後半からの指使いで、1-2-5、1-3-5、1-2-4、5-3-1、2-1-2-4,5-4-3-2-1-2,3という指使いを最初に指導する。これはブロックによる基本の指使いである。

それから、色々な替え指を指導する。

但し、替え指を指導する場合には、生徒がブロックの指使いをちゃんとしっかりと理解出来ている、という前提に立つ。

25小節目のpedalingについて

25から26小節目や、同じpassageではあるが、29から30小節目,或いは39小節目を生徒が1小節間、pedalを踏みっぱなししているのに、それに対して注意をする指導者が少ないのには、辟易される。

この譜例の、いずれのpassageも、2,3拍目はscaleであるのに、pedalを踏みっぱなしにして演奏しているので、ピアノが何の音が分からないぐらいにすごい音がする。

装飾音については、後述の37小節目の装飾音の注意と同じなので、此処では譜例だけにしておく。

譜例:25小節目の装飾音の弾き方。

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