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[Sequenz進行]

31小節目から37小節にかけての和音進行も、定型のSequenz進行になる。

31〜31小節はTの和音、33〜34小節はYの和音、35〜36小節目までは、Wの和音で、つまり、3度圏である。

ちなみに、37小節から40小節目まではX度の和音の保続に過ぎない。

 

[古典派時代の装飾音について]

A: 37小節目の装飾音の弾き方については「譜例:a」のように弾かせる先生が多いのではないだろうか?テキスト ボックス: 譜例:a 37小節目、
間違えた現代流の解釈による装飾音の弾き方




この現代の装飾音の入れ方の演奏では、36小節目の3拍目の裏の音はかなり強烈な不協和音になってしまう。(勿論、聞き取れれば!という話なのだが。)

 

古典の時代の人達はこういった和音の濁りは、とても許せなかったので、古典派の曲の装飾音の演奏時には、こういった風な弾き方はありえなかった。


古典派の時代の定石では、(Mozartの時代の弾き方では、)装飾音は次のように演奏されなければならない。(違いは聞き取れるかな・・・??)

少なくとも、パソコンで演奏した音源から、違いを聞き取れる先生はいなかったのですよ。


譜例:37小節目 正しい装飾音の弾き方










B:次の課題は41小節目と、42小節目の装飾音である。

この装飾音は次のように弾かせる先生が殆どではないだろうか?

 

譜例:41小節目と42小節目の装飾音の数多く見受けられる間違えた弾き方

[予備知識 : ベースの弾き方]

下記の譜例に見られるように、41小節目の右手は8分音符ではあるのだが、左手は低弦の音を表す4分音符であることを忘れてはいけない。よく右手の動きにつられて、左手も8分音符になっている人を見かける。43小節目になって、突然4分音符に戻ったりする。

この41,42小節目の左手の4分音符の動きは、そのまま43,44小節の4分音符のbeatと整合しなければならない。

譜例:41小節目から48小節目までの低音部の動き(phrasierung)

当然、47小節目(譜例では7小節目のbreathのマーク)の1拍目と2拍目の間は、軽い息継ぎが入る。

 

[Mozartの特別な装飾音について (Alla turca)]

いよいよ、ここからが本題であるが、41小節目と42小節目の装飾音は低声部から上声部までの段を跨いだslurが付いている。そこに気づいているか否かの話である。

この場合の装飾音は通常の拍頭に合わせる装飾音とは違う。この装飾音は例外的に拍の前に出して、次のように弾かれる。

譜例:41小節目から42小節目までの装飾音の正しい弾き方

何故、この曲は古典派の定石を破って、装飾音を前に出して、しかも段を跨いで弾かなければならないのか?

その疑問は同じ時期に作曲された次の曲を見ればよく分かる。

参考:

(同じ時期=1778年)この曲が作曲された年(1778年)は、Mozartが母親と二人っきりで職探しのために異国であるパリに滞在していた時の作品であり、母親を異国の地で亡くしてしまうという、悲劇的な有名な手紙を父親宛に送ったときでもある。

悲しみを爆発させたようなK.310 イ短調等の一連のPianosonateの名作が数多く生み出された年でもある。

 

この装飾音についての参考曲であるが、F DurのPianosonateと同じ時期に、パリで作曲された一連の作品のなかの一つで、K.331のA Durの有名なPianosonate で、V楽章に Alla turca(トルコ風に)という、所謂、トルコ行進曲として知られている曲の装飾音の部分である。

この装飾音も、F DurのPianosonateの41小節目の装飾音と同じように前に出して演奏する。

譜例:Mozart Pianosonate K.331 第V楽章[Alla turca]トルコ風

つまり、この装飾音の音はトルコの軍楽隊の行進の時に演奏されるスネヤードラムの真似なのである。

装飾音のパラパラというarpeggioの音が小太鼓に装着されたスネヤーの音を表している。

昔々は、実際にPianoのpedalにスネヤードラムの太鼓の音を出す機能を持ったピアノも、大量に作られた。その現物の一台は武蔵野音楽大学の楽器博物館で見ることが出来る。

 

また、実際にそのPianoを使用して、Mozartのトルコ行進曲を演奏しているCDも、各メーカーから色々発売されている。(残念ながら、私は持っていないが・・。というか、本物の音は大学で何度か試演させていただいたので、興味が無い、という事だ。)

 

45小節目の装飾音の入れ方。

装飾音は必ず、左手の拍の中に納まらなければならない。ゆっくりとどう入れるのかを確認すればよいのに、ただ指を素早く弾くことで、tempoに収めようとして、速度とtouchの話だけになっている。

しかし、此処のmelodieは優しい優美なmelodieなので、そんなに早いaccent装飾音では、場違いである。

譜例:45小節目の装飾音の色々な弾き方

譜例:49小節目から70小節目までの左手の分析

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