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ミキサーになりたいという女の子が訪ねてきました。
最初はまじめに「ミキサーになるには三通りの方法があるんだよ。」などと、その職業に就くための道順を説明したのですが、その子の反応があまりにも無反応なので、ふと「ところで、ミキサーってどういう仕事か知っているの?」「ミキシングってどういうことをするのか知っているの?」とポータブルのミキサーを出してきて「まずこのスイッチの名前はなんというか知ってる?」「こんな機械見た事ある?」と質問をしました。その結果彼女はPAはおろか、ミキシングどころではなく、カセットに自分のピアノの演奏を録音したこともない、ということに気がつきました。

ミキサーやPAの世界は、まだまだ男の世界で、女性のミキサーはまだいないか、いたとしても非常にめずらしい存在だと思います。
その男性社会の中で仕事をしていこうと思ったら、相当な覚悟が必要となるはずです。

自分が就職したいという職種のことを、何一つ知らないままに就職活動するということはいったいどういうことなのでしょうね?

あまり知られていないことではありますが、音楽にたずさわる職種は演奏家や音楽教室の先生、中高の音楽の先生などに限らず色々な職種があります。

中央の法科を卒業間近の女の子(16歳までは地方で芸大のピアノ科に進むべく頑張っていたのですが、とうとう挫折して一般大学に進学しました。)ですが、やっぱりどうしても音楽関係の職に就きたいということで、回りまわって私のところに訪ねてきました。

「演奏家になるのは今からは無理だよ。」と言うと「演奏家は無理でも、演奏家の人達と関わっていきたい。」という希望なので、法科という職種を活かして、彼女には語学の勉強(英会話)を至急するように言って、大手のプロダクションを紹介しました。まず、学生なのでもぎりのバイトから始めました。そこで彼女がまず驚いたのは、もぎりという、チケットを受け取るおばさん達の仕事です。チケットを受け取ったらA席B席と席別に分類して20枚くらいずつの束にしてもぎりが終わります。お客さんが全員入場し終わったら、

バイトの子たちが皆集まって値段別に分類するので、入場し終わってから、1時間くらい分類に掛かります。もぎりをプロとしているおばさんたちは、その作業をチケットをお客さんから受け取ると同時に、手の中で済ませてしまいます。

手の中で値段別に分類して、20枚ごとの束に輪ゴムでまとめて、下に置いてある紙箱にポンと入れます。それを、お客さんからチケットを受け取りながら同時にこなしてしまうのです。ですから、最後のお客さんが会場に入ると同時に、さらさらとデータを伝票に書きこむと「お先に」と言って、さっさと帰ってしまいます。

一見するとただチケットを受け取っているだけのように見えますが、「もぎり」でもプロとなるとそこに大変な技術があるのが分かります。

彼女は音楽関係の色々な分野のバイトをしながら、プロの技術を見学しました。そして日本には数社しかないクラッシック専門の音楽プロダクションに無事就職できました。それまでに(約半年かな?)英会話教室で会話の技術をマスターした彼女は、就職と同時に彼女の夢である外国人の演奏家と一緒に日本国中を演奏活動で旅することができるようになったのです。

会社でも音楽教室でも雇うのなら即戦力となる人が良いに決まっていますからね。

 

私の生徒の例をもう一つ、お話しましょう。お題は「急がばまわれ」と言うところでしょうかね。

ずいぶん以前の、6月頃の話です。彼は、地方から出てきた普通(一般)大学受験の浪人生でした。条件は、受験勉強のストレスの解消として、追い込みとなる10月、11月頃までヴァイオリンをやりたいということでした。

それから、タイムリミットの10月、11月になっても「もう少し続けます。」と言う事で、12月になってしまいました。

所が12月も後半になってくると、彼の目標としていた学校が毎週ころころと変わりだします。「先生、此処を受験する事にしました。」挙句の果てには「先生、音大を受けます。」と言い出す始末です。いわゆる受験ノイローゼでしょうか?

そこで、私は彼の受験勉強について、テコ入れをする事にしました。

まず第一には、だらだら勉強するのを止めて、時間割を作ることです。

50分勉強したら15分休む事にしました。それまでは、納得の行くまで時間を決めないで(もちろん大まかには決めてはあったようですが)勉強していたようです。

「その時間内に出来なかったとしても時間は延長しない。」と言うルールを作りました。

数学をやったら英語、国語をやったら物理、と言うように前後に暗記系の科目などがダブらないように配列しました。

でも一番大切なのは、休みの時間のすごし方です。いったんTVなどを見て、だらだらすごしてしまうと、次の勉強の時に集中が出来なくなるのです。ですから細かく休みの時間の内容を決めて行きました。本当は、一日のうちで1時間半程度のだらだらタイムも(食事時間の後などに)欲しいのですが、ノイローゼがひどいので下手にだらだらタイムを作ると悩み考え込んでしまい、逆効果なのです。

15分の中身は、まず軽いジョギング(額に汗をかく程度の)主に夜の音出しが出来なくなった時間、昼はヴァイオリンの練習を中心として、部屋の掃除などもこの15分の時間に入ります。

食事、風呂なども(勉強が終わってと言うわけには行きませんので。《借家住まいで銭湯とかでは時間に何かと制約されます。》)当然時間割の中に組入れなければなりません。そこが自動的にロング休憩になります。

一見すると休み時間さえ、時間に拘束されて追い込まれてしまうような感じに見えますが、実際にはけじめがついて体が楽になるのです。

タイムテーブル(スケジュール表)はまず一週間だけ使用します。何故なら、時間割を作るのがなれない間は、理想ばかりで現実味を帯びないからです。

上手く行かなかった時間の配列や過不足を調整します。次の調整は2週間後です。

その次は・・・・週間後にと言う風に、少しずつ現実味を帯びたタイムテーブルを作り上げますが、理想のタイムテーブルが出来上がった頃には、もう受験は終わっていることでしょう。

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