私は、子供達には、結構、Beyerが終了したばかりの早い段階で、ornamentの種類を色々と指導する。
それは、日本流の間違えたornamentに毒されないように、するためである。
Couperinの修道女モニカ
「ornamentの由来」
baroque時代の音楽の中心の楽器は、Cembaloやorgelという楽器であったのだが、Cembaloやorgelには、致命的な欠陥があって、crescendoやdiminuendo等は勿論の事、violinやfluteのように音を震わせるvibrato(ビブラート)やaccentやお仕舞の音の弱拍の音を演奏するような微妙な表現は出来なかった。
歌やviolin等の弦楽器のように、音を持ち上げて音と音を繋げて演奏するlegatissimoのような奏法は、無理であると言わざるを得なかった。
特にrococo時代のCouperinやRameauのような、小洒落た小粋なmelodieを歌い込んで行くためには、そういった表現力の弱さは、致命的と言わざるを得なかった。
そこで、その欠点を挽回する技法として編み出された演奏法がornamentによる奏法である。
先程の、音の強勢の例を取って言うと、日本で唯一演奏されている@強拍のaccentを表すtrillerの他にも、一般にA弱拍を表すprall=trillerや、先程のBportamentoを表すschleiferや、Cvibratoを表すmordent、Dcrescendoを表すゆっくりと開始してだんだん速度を上げて行くtriller、或いはその逆のEdecrescendoを表すtrillerと、そのtrillerに接続するFVorschlagとGNachschlag等の奏法である。
音楽の初歩の段階では、この程度の8種類の装飾音を演奏出来れば良いだろう。
この8種類のornamentは、数あるornamentの中の基本の一例に過ぎない。
もっと詳しくは、C.P.E.Bachの正しいピアノ奏法(と邦訳されている)や、Couperinのクラブサン奏法(邦題)その他、TelemannやQuantzのornamentの教則本にとても丁寧に詳しく書かれている。
大作曲家であるCouperinは、Vivaldi同様に子供を指導した経験があるようで、その著書には、「装飾音を指導する時には、ここまでは指導して良いが、これ以上は無理!」とか、書かれていて、子供に装飾音の奏法を指導する時の注意を書いてある。
確かに、装飾音を正しく演奏する事は、子供だけではなく、大人にとっても、プロの演奏者にとっても難しい事なのだが、このornament奏法を更に難かしくしているもう一つの要因は、国とその作曲者によって、ornamentの呼び方や、奏法が著しく異なるからである。
それぞれの作曲家が、自分の作品を例に取って、その装飾音の表現を、説明しているのだが、それが、他の作曲家に応用することは難しいからである。
Couperinの装飾音は、仮にdaquinには有効だったとしても、BachやTelemannの作品には有効ではないし装飾音の呼び方すら、全く異なっている。
C.P.E.Bachのornament奏法も然りで、父親のJ S Bachや、父親の友人でもあるTelemannには、有効だとしても、それ以外のrococo時代の作曲家達には、ある程度の基礎的な常識の範囲の装飾音だけでしか、そのtheoryは有効にはならないし、一つ一つのornamentの記号に対しての呼び方(名前)も、それぞれの国で全く違ってくる。
これが、ornament奏法の習得を、殊更難しいものとしている。
参考までに:BachのinventionとSinfoniaのornamentについて
より、「装飾音のPage」
また、ornamentは、そのornamentの表現がより拡大して行くと、ornamentの飾りという意味合いから逸脱して、即興演奏の範囲に迄、及ぶ事がままある(・・・と言うか、非常に多い。)
その基本の技術の習得は、C.P.E.Bachの正しいピアノ奏法(日本版では下巻)に、その習得の手助けの第一歩が記載されている。
それを更に、拡大したのが、現代の著書であるが、今日のCembalistの**が書いた**のeingangの教則本であり、一つのsempreとしては一読に値する。
(**の説明:事務所が江古田から椎名町にお引越しをした時に、私の膨大な資料の幾つかが何処に行ったのか、分からなくなってしまったので、その教則本の名前と著者が分からなくなってしまったのですよ。
事務所のお引越しの時には、私が病気療養中だったので、資料の整理は弟子達がやってくれたのです。
ですから、私が監督して整理したのではないので、未だに資料が行方不明でしょっちゅう困っています。
本当は自分の事は自分でやれればそんなポニョミスはないのだけれどね。
心臓の手術は、予後の負担が、やはり大きいのよね!!)
その即興演奏の第一歩はeingangであるが、eingangはやがて時代と共に、古典派の時代に至ると、kadenzへと発展していく。
Mozartは、eingangを多用した作曲家でもある。
BachやHandelのCembalo曲には、音や音型を断片的に書いて、即興の手助けとした譜面も見受けられる。
下の譜例はHandelのCembalo組曲の第一番の前奏曲なのだが、Baerenreiterの原典版には、参考例として演奏譜が載っている。
原典