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実は、この楽器は大変珍しい、オールドの分数サイズのviolaなのです。
violaなのに、分数・・・というのは、それ自体大変珍しいのです。
しかもオールドの楽器!!
一体、この楽器製作者は、誰のためにこのviolaを製作してのでしょうかね??
楽器としては非常に良い楽器で、保存状態も良いものです。
・・・が、それにしても、子供の頃からviolaをセカンド楽器として教えている教室は、世界広しといえども、私達の教室ぐらいしかないと思いますがね??
という事で、このviolaは、とても良い楽器であるにも関わらず、私の所有になっているのですが、残念ながら、未だ、この楽器でviolaconcertoを演奏をした事はありません。
ヴァイオリンのコンチェルトは、小学3、4年生だと普通に弾いていますが、流石に、violaともなると、その機会は、なかなかなかったのですよ。
良いヴァイオリンとは
ヴァイオリンの善し悪しは、音色の他に、その楽器がいかに遠音のきく音を出せるかどうかにかかっています。
自分の耳元で強く聞こえる音を良く響いている音と勘違いしてしまっている人は、ブロ・アマを問わず多いようです。
音の強弱とは関係なく、遠くまでしっかりととどく音を「遠音のきく音」、近場ではよく響いて大きな音が出ているように聞こえるけれども、少しはなれて聴くと、音が届いていない音を「傍なりの音」と私達は呼んでいます。
「傍なりの音」がでるのは、あながちヴァイオリンのせいばかりでもなく、悪い演奏スタイルに依ることも多いようです。
楽器自身を響かせようとするのではなく、力で強引に楽器を鳴らそうとすると、狭いレッスン室等、近場で聴いていると大きな音で聞こえるので、ホールなどで奏いても遠くまで音が届くと思ってしまう人が多いのです。
ヴァイオリンの場合には遠音のきく音と傍鳴りの音の聞き分けは、ホールでの長年の経験が必要です。
しかし、ピアノや歌の場合には、比較的簡単に違いを知ることが出来ます。
「遠音のきく音」と「傍鳴りの音」を、広いホールで録音をすると、その差は歴然としています。
録音器の音量メーターの針の振れ方が違うのです。
「遠音のきく音」は、音量のメーターを見ながら音を出すと、メーターの針の振れが一定の場所で止まっているように安定しています。
一見強く聞こえる「傍鳴りの音」は、音の出だし(立ち上がり)の衝撃音の時に、針は一気に上がりますが、その後すぐに落ちてしまいます。
だから、客席の後ろの方までには音が届かず、見た目には迫力があったとしても、スケールの小さい演奏になってしまうのです。
困ったことに遠音のきく音は、倍音を多く含むために音色がとても柔らかく、その為に音楽学校の先生達ですら、弱い音だと錯覚してしまいます。
常に均等に遠音のきく強い音が鳴っていると、人間の耳はそれに慣れて弱く聞こえてしまうからです。
反対に傍鳴りの音は、狭い部屋で弾いた場合、人間の耳に聞き分けられない程度の早さで強弱を繰り返すために、耳が慣れるということがなく、一見強い音であると錯覚してしまうのです。
このような耳の錯覚は音量によるものだけではなく、音色の場合に於いても起こります。
ハープはとても柔らかく美しい音色を持っている為、通常人はとても弱い音だと思って聞いてしまっています。
ところがハープは大編成のオーケストラでも1台で支えることができるのです。
それぐらいハープの音量は大きいのだけれども、柔らかい音色のために弱い音だと錯覚してしまうのです。
それは、ハープの音が遠音のきく音色だからなのです。
耳に感じる音量と、実際の音量の強さは全く違うものなのです。
このように良いヴァイオリンを選ぶには「遠音のきく音」が出せる楽器を選ぶことが不可欠です。
ところが本当に遠音のきく音かどうかということを聴き分けることは、プロのヴァイオリニストにとっても非常に難しく、多くの経験と卓越した耳が必要なのです。
プロの人でも白分の気に入った楽器を買って何年か弾いているうちに「何かしら違う」と感じて買い直したり、自分に合ったヴァイオリンがなかなか見つからず、探し求めている人が大半なのです。
楽器のことをよく知っている人は、自分の耳だけをうのみに信じるのではなく、信頼できる(遠音の効く音を聞き分ける能力を持った)友人などを連れていって、聴いてもらったり、弾いてもらったりして、ヴァイオリンを選びます。
私たちも楽器を選ぶ時には、二人以上で楽器店に行って、遠く離れた所から聴き、そのヴァイオリンが遠音の音の楽器か傍鳴りの音の楽器かを確認しています。
ヴァイオリンの音は人間の声と同じで、耳元で聞こえる音とある程度離れて聞く音は音色迄も違います。
楽器探しということでは、おもしろいお話しが沢山あります。
ついでにいくつか紹介しましょう。
ヴァイオリニストである私の親しい友人から、「白分の楽器を良いものに買い換えたいから手伝って欲しい。」と言われ、楽器屋さんに委託された楽器を持って、ヴァイオリンの選定のお手伝いに行ったことがありました。
楽器屋さんでは、私の気に入ったとても良い楽器が何本かみつかり、その何本かを持って行って、彼女に見せたのですが、なんと、本人は気に入りませんでした。
こんなに良い楽器なのにどうして…?と不思議に思って、また別の楽器を紹介しましたがやはり本人は気に入りませんでした。
彼女から、好みの楽器の希望を、もう一度よくよ聞いて見ると、彼女がイメージしていた音は傍鳴りの、安い楽器の音だったのです。
私はバカバカしくなってしまい、彼女の為に楽器を選ぶことはやめてしまいました。
大体、傍鳴りの楽器に彼女の希望するような、高価な楽器はありませんからね。
結局、彼女は、大学時代の恩師から、傍鳴りのする(二束三文の)楽器をとても高い値段で買って、非常に満足して、自慢げに見せていました。
私だったら、その楽器は30万出しても買わない代物なのですが、その二束三文の楽器を数百万出して買ったのですよ!!
その教授に私が文句を言うと、「その値段でも、気に入って買ったのだから、彼女にとってはその楽器はその値段なのだよ!」と言われてしまって、私としても、妙に納得してしまいました。
怒りも、一瞬で萎んでしまったのですよ!!
だって、ブランドって、そんなもんでしょう??
本当の物の価値が分かる人は、ブランドには拘らないし、高価な本物と安物の区別がつく人はブランドには拘らないはずだからね。
次のお話は、ヴァイオリニストがヴァイオリンを奏きこなすテクニックがあったとしても、音に対するイメージ(楽器を選ぶということ)はまた別の技術であるというお話です。
もう一つはオケマンならば、誰でも知っているお話です。
プロオケのコンマスの人が自分の楽器をもう少しグレードアッブしようと、楽器店に行きました。
自分の気に入った楽器を一生懸命探しましたがなかなか見つからず、とりあえず今まで使っていたヴァイオリンを下取りに出し、その日は仕方なく楽器を購入することはあきらめて帰りました。
その後、楽器店としては、その預かった楽器の色合いや、ネックの長さのバランスがよくないので、「これでは売れないだろう。」ということで、少し黒っぼく(オールド風に)塗り替えて、ネックを交換して、改めて売りの楽器として店に陳列しておきました。
数日後、彼がやって来て、その(塗り替えられた元自分の)ヴァイオリンを見ると「この楽器はとても良い楽器だ。探していたイメージにぴったりだ。」と言ってとても気に入って、(今まで自分が使っていたヴァイオリンだということには全く気付かずに)買って帰りました。
この話はたちまちオーケストラのメンバーに広まってしまい、「○○さんのヴァイオリン」と噂されるようになってしまいました。周り人達は知っているけど本人だけは今だに知らないという、有名なお話しです。昔のお話ですけどね。
ヴァイオリンの価値は色やネックの長さ、で決まるものではない。
このようにヴァイオリンはネックの長さや楽器本体の色をいくらでも後で変えることができます。
色自体は楽器の音にはこれといって影響をあたえる訳ではないからです。
基礎ニスには楽器にしみこませて強度をつくるニス(一番重要なニス)があります。
どのように調合したニスをしみこませるかはそれぞれの名工達が一番苦労をするところで、そのために一子相伝にして極秘になっている事の方が多いのです。
ストラディバリのニスの調合の文書が見つかったとか、見つからないとか、一つの伝説にまでなっています。
それに対して、楽器の外に塗られた美しいニスやその上に塗られたアメニス(あめ色のニス)は基本的には楽器を保護する為のコーティングニスです。
そのために塗りすぎると楽器本来の音をつぶしてしまいますが、楽器にとってそれほど重要な役割はしていません。
ましてやストラリバリウスのような古い名器は、本来どのような色であったかは古い残留物をみて推し量ることしか出来ません。
楽器の色が当時のままの色であるがどうかは、甚だ疑問です。今日我々が弾いているバロック時代に作られたヴァイオリンは当時のそのままの形ではありません。
より良い楽器であればあるほど、沢山の名工達の手によって少しずつ改良されて現在私達が奏くヴァイオリンの形になっているわけです。
基本的にはどういう所が、改良されたのでしょうか。
バロック時代のヴァイオリンの弦はガット弦(羊の腸から作られた弦)で高価ですごく切れやすかったのです。
その為(弦の張りを弱くするために)ネックの長さが短かかったのです。
当時は宮廷や貴族の小さなサロンで演奏されることが多かったので、弱い音量でも充分だったのです。
ところが、19世紀になって音楽が大衆の為のものになり、大ホールで演奏されるようになり、又、弦の品質にも改良が加えられ現在の、(強い張力にも耐え品質的にも均等になった)優れた弦が生産されるようになりました。
ヴァイオリンもその張力に応えられるように響板の下に力木というそえ木が加えられ、ネックも弦をより強くはる為に長くなりました。
その為にハイボジションが出せるようになりました。
そのような改良を加えられたものが今日私達が使用しているヴァイオリンです。バロック時代に作られたそのままの形状のヴァイオリン、もしくはそのような作り方で作られたヴァイオリンのことをバロックヴァイオリンと言います。
バロック時代に作られた現代ヴァイオリン(製作年代はバロックであったとしても、現代使用に改良されたヴァイオリン)に対して、現代に作られたバロックヴァイオリンもあります。
ストラディバリと双壁をなす名器にアマティのヴァイオリンがあります。
とても甘い音のする名器なのですが、ストラディバリより少し古い時代の楽器なので、寿命が来ていて、今日では実際に演奏されることは少なくなりました。
ヴァイオリンの形も女性のそれを連想させるように、とてもふくよかな形をしています。
またアマティに強い影響を受けたシュタイナーも基本的にアマティ型でふっくらとした形をしています。
すらっとしたストラディバリ型と好対照をなしています。
ヴァイオリンは形だけでなく、大きさも限り無くヴィオラに近いヴァイオリンがあったり、3/4に近いヴァイオリンがあったり、厚さの厚いものや薄いもの、と言う風に定型となるものがありません。
何を持ってフル・サイズというかとは甚だはっきりしないのです。
その為に私達が分数サイズといっているヴァイオリンについてもかなりアバウトなものです。
ちなみに、分数とはフルサイズのヴァイオリンに対しての体積比でありますが、大元の基準値がないわけですから、当然一台ずつ異なってしまうわけです。
私たちの教室では、オーケストラで子供の体の大きさに合わせた1/10サイズや1/2サイズのコントラバスを使用しています。
この分数サイズのコントラバスを使用している所は殆どないと思ってもよいでしょう。
なぜなら、小さな楽器を作るには、型板だけでなく、ノミやカンナなどの木を彫る道具まで全て楽器のサイズに合ったものが必要だからです。
それらを一通り揃える為には、500万円ぐらいかかってしまいます。
一台のコントラバスを作るために材料費の他に道具代にそれだけかかってしまうのです。
それだけのことをして作っても、世界中で分数サイズのコントラバスを買う人は数えるほどしかいないでしょう。
採算がとれなくなってしまいます。
その為、それを作ろうとする人がいないのです。
しかし、たまたまコントラバス専門の楽器製作者の方が、まったく個人的な自分の趣味としてそのような道具を揃えていたから私達の教室が楽器を手にいれることが出来たのです。
楽器製作者からは、趣味としてやっているので絶対に楽器の出来上がり日を決めないこと、(何年かかっても催促しないこと)という条件で注文に応じていただけることになったのです。
(安い楽器のように機械彫りのものではなく、きちんとした手彫りの完全な手作りの楽器です。)ですから、分数であるにもかかわらず、コントラバス独特の肉太で深い音色を出してくれるので、オーケストラの支えとも言うべき低弦の役割を立派に果してくれています。
いままで音大にピアノで進学した生徒達が1/2のコントラバスを買って副科楽器として勉強してきました。
音大では専門の教科(ヴァイオリンとかピアノとか)の他に、副科の楽器を選択しなければなりません。次に音大に進む生徒達の為にコントラバスを教室で準備してあげようと思いましたが、彼女達の身長が165〜6位なので、ちょうどこの1/2がジャストサイズとなってしまい、フルサイズに買い換える人がなかなかいません。
そのため下取りが出ないのです。教室のストックとしては1/10サイズ(新品)が二台ありますが、それが現在準備できているコントラバスの最後です。
(小学生〜中学生ぐらいまで)コントラバスでオーケストラに参加したいという希望の方は担当の先生に御連絡ください。
これから先、分数サイズのコントラバスについては、製作者の都合で注文しても作っていただけるか、又、もし注文を受けてくれたとしてもいつ出来上がるか分かりません。
ぜひ、この機会をご利用ください。
ある程度、高価なヴァイオリンを選びに行く時に、ヴァイオリンのF字孔から裏板に貼ってある製作者の名前を読んで、「ふむ、ふむ!!」となるのでしょうが、古い高価な古楽器になればなる程、その修理のために、楽器の蓋を開けて、(表板や裏板を剥がす事を、蓋を開けるという言い方をします。)必要とあれば、その紙を剥がして、修理をします。
次に売る人が特定の作家がお望みなら、その作家のシートを貼って、「この楽器は**の銘器だ!」と言っても、まず、分かりませんよね。だって、シートは本物なのですから・・・!
我々、演奏をする人間にとっては、音が良ければ、誰の製作であっても良いのですからね!」
楽器は、音楽家にとっては、仕事道具であって、ファッション・アイテムではないはずです。
でも、「楽器を売る時に、ギャランティーが・・」という人もいるかもしれませんよね。
でも、保証書というのは、昔、潰れた宝石店と同じで、その店でしか保証はしないのですよ。
それも、100万クラスでは、保証があるかどうか??
お店がちゃんとしていれば、いくらの楽器であっても、言った通りの保証はしてくれます。
教室推薦でない、個人の楽器店で教室とは無関係に「買った楽器を、引き取ってくれなかった!」「何とかして欲しい!」と言って来た人もいましたが、楽器を保証するのは教室ではなく、楽器店なのですから、教室としては如何ともしがたいのですよ。
私達の場合には、「これは正真正銘のバレストリエリの偽物だけど、買う??」と聞かれて、先生用に購入した事がありました。バレストリエリ工房の楽器で、正真正銘のバレストリエリの作品なら数千万円です。お弟子さんの作品か、少しだけバレストリエリが手伝ったのか???でも、正真正銘の偽物なので、数百万で買えました。
でも、超気難しい楽器で、普段は「やっぱり、超偽物だよな!」というほど、音も出ません。
所が、本番等で、突然、信じられないほどの大音量と美しい音を出すのです。
スタジオ・録音中には、最初の音取りをした音量のlevelの、倍以上の音量になって、PAの人達を困らせていました。
「これは、やっぱり、正真正銘のバレストリエリの銘器か?!!」と思っていると、次の日には、すっかり、偽物に戻っているのです。
という事で、未だに、困っています。
弓のお話
今回は文章が長くなってしまいましたので、baroqueviolinのお話や、弓のお話に触れることが出来ませんでした。
下は私の愛用の現代棒で、上の弓は初期の時代のbaroquebowです。
一つだけおもしろいことをお話ししておくとすれば、良いヴァイオリンと良い弓を組み合わせたとしても、ヴァイオリンが良い音を出してくれるとは限らないという不思議なお話があります。
これをヴァイオリンと弓の相性といいます。
前のヴァイオリンでは弓との相性が良かったのだが、ヴァイオリンを買い直したために弓まで買い直
さなければならなかった、という話は当たり前のことです。
よく弓を買うのに「この弓は何グラムか?」と量りで計って買う人がいます。
とても、信じられない話ですが、amateurにはよく見受けられる光景です。
弓には軽くても「すいつきのいいもの」や、重くても機動力の優れたものがあるからです。
弓の選び方は、経験です。
その点は、音楽教室をやっていると、年に何本も、200万や300万クラスの良い弓を選ぶ事があって、良い弓に巡り会えるチャンスには恵まれています。
ただ、残念な事は、良い弓に巡り会えて、それをものに出来たとしても、その弓の所有者は私ではないという事です。
いや〜あ!超、残念!!
この私がトルテの2000万、3000万の弓よりも素晴らしくて、もっと安い、3, 400万の弓を手に入れた事があります。
ある時に、偶然、その一本に巡りあった時に、絶対に他の人に買わせたくないと思って、教室の生徒さんに電話を掛けまくりました。楽器屋さんが、「小学生に売るのだけは勘弁して!」と言うのにも、関わらず、「札びらの方が強いのだよ!!」と強引に買い取ってしまいました。
より良い楽器に巡り合う事は、あっても、弓は10年、20年に1本巡り会えれば良い方なのです。
私の人生でも、本当に銘棒に巡り合ったのは、楽器屋さんに出入りするようになってからの40年間で、僅か2本です。勿論、その2本は、教室が押さえておきました。
だから、これぞという弓があったら、お金は後回しにして借金しても買うべきです。
勿論、その2本とも私の所有ではないけれどね。
まず弓を選ぶときには全弓を奏くところから始めます。
先っぽの所で急に力が抜けたり、真ん中あたりで、妙に手首に力の掛かる弓があります。
それはよくない弓です。
私の弟子達には、先ず、弓の選定法として、その感触を覚えさせる事から、始めます。
元から先まで指や手首に力を入れなくとも、弓を不自然に押さえつけなくとも、すいついたように音が出る弓、これが埋想的な弓です。
それで、何本かを選びだしたら、次はその弓の中で、弓の機動性のテストです。
スタッカートやマルカート、スピッカート等々の技術に弓がどの様に正確に反応してくるかを見なければなりません。
この機動性のテストで大切な事は、試演する楽器は、その弓を購入する人の楽器でなければなりません。
不思議なことに他のヴァイオリンでは非常に良い反応をしていた弓が、楽器が変わることによって全くただの棒(bow)に変わったりします。
音が立ち上がらなくなったり、カスカスになったりする事もしょっちゅうです。
そういうテストを経て選び抜かれた弓とヴァイオリンの組合せでやっとヴァイオリンも弓も生きてきます。
弓と弓の持ち方の違い
弓には大きく分けて、ジャーマンbowとイギリスbowとフレンチbowがあります。
いずれも製作者の国籍ではなくスタイルを指します。
ジャーマンbowの特徴は重く太めで剛性が強い弓です。現在輸入される弓の大半がジャーマンスタイルの弓です。
イギリスの弓はドイツとフランスの中間のスタイルをとることが多いようでどちらかといえば、まだ剛弓のほうです。
フレンチbowは柳腰で軽く華奢な感じがします。
製品も少なく高価でオールドフレンチともなると希少価値も非常に高く一般的には150万以上でも入手困難になります。
ですから、日本では、「高価な弓は良い弓」という短絡的な発想が主流を占めているために、自分の弓の持ち方を無視して、ついつい高価なFrenchbowを買う人が多いようです。
しかし、Frenchbowでは日本の先生達が教えているような三点支持の弓の持ち方では、弓の腰が弱いために、力で押さえつけて奏かれると、棒が直接弦に当たってしまいます。
だから弓を目一杯に張って、弓を逆反りにしならせて演奏している人がいます。
それではFrenchbowでは、折れてしまいます。
現に、演奏会で、一番腰が強いはずのviolaの弓さえも、折ってしまった剛の人もいるそうです。
そういう風に、Frenchbowは、三点支持の弾き方では、弓自体も曲がってしまって、弓が壊れる(折れる)事もありますので、私のようなFrenchbowの奏法で指導している人間は、Frenchbowが品薄になってしまって、大変困ってしまっています。
(三点支持の持ち方をする人は、剛性に富んでいるジャーマンbowやイギリスのヒルのようなbowの方が奏法に合っていると思います。)
一点支持と三点支持は弓の持ち方の基本的違いです。
ヴァイオリン奏法には基本的にロシア派とドイツ派があります。
ヨアヒムのヴァイオリン奏法などの影響を受けた日本もこれらのメトードの流れを汲みます。
それに対してグルミョーやベルリンフィルの主席コンサート・マスターのシュワルベ教授などの提唱するベルギー派があります。
体の自然な流れと無理のない動作を主点に置いたメトードです。
無理な姿勢と力で腱鞘炎になった生徒が「練習のしすぎで腱鞘炎になった。」とか自慢げに言っているのを聞いたことがあります。しかし、それはamateurの大恥の言葉です。
プロにとっては、毎日が練習に明け暮れます。だから、プロにとって腱鞘炎になる事程、恥な事はないのです。つまり、腱鞘炎になるという事は、演奏上、不自然な力が何処かに入っているという事の証なのですから・・・・!!!
プロにとっては何時間練習しようとも、腱鞘炎になることは、あってはならないのです。
プロが腱鞘炎になる事ほど恥なことはないのですから。
東京に有名な腱鞘炎専門の病院があって、無理な弾き方をしている演奏家の人達がよく行きますが、プロの人達は、こっそりと誰にもばれないように、細心の注意を払って、・・・と言うのは当然でしょう。
私達のメトードや、ベルギー派のメトードでは何時間練習しても、腱軸炎になった人は過去40年間から現在まで、まだ一人もいません。
しかし、幾らベルギー派のように力を抜いて、手首を楽にして弓を一点支持で持って、演奏したとしても、弓が合っていない場合には、問題です。
ベルギー派の奏法の場合には、弦に対してのすいっきも良く、非常に優れた弓であるフレンチbowの方が合っていて、逆に、ジャーマンbowやイギリスbowでは、吸い付きが弱いので、変に手首に力が入ってしまい、手首を傷めてしまう元になってしまいます。
ここでは弓の歴史には触れません。
baroque時代からの弓の歴史は、あちらこちらに触れた程度に書いていますが、ページとしては独立させてはいません。
いずれ、まとめて弓のお話を書きたいと思います。
いずれにしても弓が現代の形になったのは19世紀の初め頃、トルテという人の手に依ってからです。トルテは代々続いた弓製作者の家庭に生まれました。
(俗に三代目とか呼びます。)
読み書きが出来ず、そのために弓のサインを娘が代筆したこともありましたが、非常に優れた感性と才能の持ち主で、弓のストラディバリウスとも呼ばれ、二千万を越す高価な物も数多くあります。
「後世の弓の全てを決定したのはトルテである。」と言っても過言では無いでしょう。
あとがき
ヴァイオリンの楽器についてや、歴史について書かれた本は、近頃いろいろ出版されるようになりました。
しかしヴァイオリンについての素朴な疑問について書かれている本は、いまだにないようです。
よく質問を受けた事から(レッスンの時に、よくおしゃべりをしていることを中心にして)小冊子を作ってみました。
これからも少しずつ書き溜めていこうと思いますので、お気軽にご質問ください。
芦塚音楽研究所
芦 塚 陽 二
再販に際して
この「ヴァイオリンのお話は1980年の後半に配られた冊子からパソコン起こしをしたものです。
ですから、dataとしてはかない古いものですし、参考になる書物や文献等は全くといっていい程、出版されていませんでした。
しかし、今日(2010年)では、ヴァイオリンや弓についてかなり詳しく述べられている文献や読み物もたくさん出版されてきました。
そういった書籍をこのページで、色々とご紹介出来れば良いのですが、なかなかそこまでは手が回りませんので、気長にお待ちください。