変奏曲形式に付いて


変奏曲は、色々な作曲家達が普通に作っていた作曲上の形式なのですが、不思議な事にその実態は意外な程に知られていません。
・・・と言うか、音楽楽典や音楽通論の本を調べても、形式学的な解説の文章は皆無である・・と言っても過言ではありません。

せいぜい、「Variationには装飾Variationと、性格Variationがある」という変奏曲としての種類ぐらいの記述しかありません。

これ程、知られている音楽形式なのに、それはどういう事なのでしょうかね??
殆どの場合が、「変奏曲形式とは自由な作曲家の裁量に任せられた形式」としているようです。

つまり、変奏曲形式という形式に対しての定義付けは、音楽形式としての確定した形式としての、変奏曲形式として捉える事は、一般の音楽家音楽学者達に取っては、瓢箪鯰のように、難しかったのですよ。

変奏曲形式と歴史
一番、orthodoxな変奏曲形式は、当然、ornament‐Variation(装飾変奏曲)なのでしょうが、この変奏曲の歴史は、音楽の歴史と同じぐらいに古いのです。

私の場合には、音楽学の学者ではありませんので、実用的な音楽史として、baroque時代からのVariation形式としての説明から始めます。
(音楽学として、Renaissanceや中世の教会音楽迄、遡ると、音楽の有り様が、こんにちの私達の認識とは変わってしまうからなのです。)

しかし、そのbaroque時代のVariation様式と言う事も、こんにちの一般的な認識とは少し違っています。

その解説は、homepageのla foliaやPassacagliaのPageでも書いていますが、baroque時代はbasso continuo(通奏低音)の時代なので、当然、そのVariationのthemaはcontinuoであるBaßのmelodie(和音の低音)にあります。

これを、cantus firmus in Baß(Baßpartの定旋律)と書きます。

つまり、よく知られているArcangelo Corelliのla foliaなのですが、Violinの奏でるmelodieは、la foliaのthemaではありませんし、また、有名なHändelのPassacagliaのthemaも右手のskipのrhythmが特徴的なVariationのthemaは、その右手のpartでは無いのです。

しかも、驚く事に、このbaroque時代のVariationでも、大曲になると、ちゃんとしたVariation形式で書かれているのですよ。

Variationには、ornament‐Variation(装飾変奏曲)と性格変奏曲がある・・と言われていますが、性格Variationは、themaを性格的に変奏して行くのですから、曲のthemaの展開とは大差はありません。
だから、それを変奏と呼ぶか否かは、難しいものがあります。

・・という事なので、ロマン派からの反省の意味を兼ねて、近現代の作曲家達は、或る程度のornament‐Variationの枠組を残した状態で、自由にその枠からハミ出してVariationを構成するぐらいを性格Variationとしました。

楽曲の展開部というのは、所詮は、themaの展開に過ぎないのですから、themaの展開と言うか、性格Variationと呼べるか否かは、微妙だったのですよ。

それに、こんにちでは性格Variationはロマン派時代からSchumannに寄って作られた言葉のように思われていますが、実は、そういったCharacterをthemaとして自由に使うという事は、音楽の統一性を図る上での必須条件なので、Variationとは無関係に音楽の最初の生い立ちから付いていました。





変奏曲形式に付いて
器楽形式としてのVariation形式
これから先のお話は、多分、楽典の本にも音楽通論の本にも書いていない、作曲家は誰もが知っている事なのですが、音楽界では全く知られていない事になります。(つまり、「楽典の本には書いていなかっよ❢」と言われても、最初から、その前提でのお話になります。)

変奏曲形式は単純で簡単な形式から、音楽史的には存在するのですが、その形式で書かれた曲を探すのは容易ではありません。
つまり、簡単で短い変奏曲は、教育教材として書かれているか、さもなくば作曲家を目指す子供達の学習教材として書かれているからで、professionalとして確立している作曲家が書く分野ではないからです。

だから、単純な教科書的な変奏曲形式の作品が一般的には見当たらないのですよ。

楽典的に存在しない形式に付いての説明なので、よく私が、「子供の為の、子供の歌変奏曲集」(Pianoの変奏曲集やPianotrioの変奏曲集、)或いはそれ以外の変奏曲でも取り入れているもっとも、単純な変奏曲の形式です。

右側の譜例は、Mozartのkleine Variationですが、通常の簡単な教科書Variationよりも、更に、短いVariationになります。

日本ではキラキラ星として知られているVariationで、高難度の名曲であるVariationとして知られているVariationと、同じthemaで作曲されたVariationなのですが、出典は不明です。
themaに対して、殆ど変化の無いVariationが三つ作られているだけの単純なVariationですが、Variationとしての性格的な変奏はありません。

という事なので、私の場合には、(と言うか、一般的な教科書Variationの場合のお話なのですが)、VariationのCharacterを次のように、設定します。

以下、譜例としては、

子供の歌をthemaとして、Variationを作るので、

Var.1は、themaのmelodieをそのまま、線のように繋いで作ります。

Var.2は、拍子を変えます。2拍子の曲は3拍子に変わります。

Var.3は、長短の変更です。長調の曲は短調へ、短調の曲は長調へ

Var.4は、非常にゆっくりとした曲になります。(Var.3と4を合体させる事もあります。

Var.5は、非常に速い軽快な曲になります。多くの場合にはCodaを付け足す事もあります。

こういったVariationの形式が、一般的なVariationの構造式の土台となります。


これが一番単純なVariation形式なのですが、子供の歌のmelodieが長大で、緩徐Variationが非常に長くなる場合には、前後のbalanceを取るために、Variationの1番と2番を拡大させて、「1,2番melodieの変奏」と「3,4番の拍子の変更」にして、4番の緩徐楽章を5番にする事で、全体のbalanceを取る事があります。

thema  Vrt.Ⅰ装飾Vrt. Vrt.Ⅱ拍子の変更  Vrt.Ⅲ 長短の変更 Vrt.Ⅳ緩徐楽章  Vrt.Ⅴ速い速度で  Coda  
 thema Vrt.Ⅰ+Vrt.Ⅱ  Vrt.Ⅲ+Vrt.Ⅳ  Vrt.Ⅴ   Vrt.Ⅵ  Vrt.Ⅶ+Vrt.Ⅷ Coda  

緩徐楽章は、通常のVrt.の時間的な長さでは、倍ぐらいの長さになってしまうのが通常なので、速いVariationに対して、整合しない場合が多い。
という事で、変奏を増やしてbalanceを取る場合が多いのだ。

その場合には、「Var6,7番」として、更にCodaで、大きなSymmetryの構造を作る事があります。



実は、MozartのK.331のSonate形式を持たないPianoSonateなのですが、そのⅠ楽章のVariationは、この単純な基本的なVariation形式で作曲されています。



Variationのthemaが比較的にゆっくりとしたtempoなので、曲としては長大な曲のように感じますが、Variationの種類としては、単純な教科書Variationなのですよ。


参考までに、私の変奏曲形式としては、一番簡単なVariationを掲載して起きます。
themaとVariationが2つとCodaの簡単な曲です。
themaに対して、装飾Variationが一つで、次の拍子の変更とゆっくりとしたVariationが一つになっていて、更に、次に来る速いpassageがCodaと合体しています。だから、最小単位のVariationになります。















私の超、短い子供の為の変奏曲の例です。





舞曲形式としてのVariation形式
基本的な構造式はthemaに対して、VariationがA、A'、B、A"+Codaという構造式なのですが、la foliaやPassacagliaや、Chaconneは基本的に、舞曲が原型なので、器楽形式ではなくて、舞曲形式が適用されます。

舞曲形式の音楽形式は、結構、ザクっとした形式なので、Europaの楽典的には、捉え難いのかも知れません。
私は舞曲形式の変奏曲形式を、日本の雅楽の形式である「序、破、急」に例えて表現しています。

この形式は、良く知られたgypsyの形式であるHungarian Rhapsodyの形式でもあります。

つまり、「序」の部では、melodieやrhythmが断片的に登場します。所謂、混沌とした部分です。

「破」の部分は、断片的なfragmentで合ったmelodieが一つのmelodieとして形を成したり、中間部としての緩徐楽章であったりします。(3部構成であるか、4部構成であるか、でその成り立ちが変わります。)

3部構成の場合には、序章のfragmentで構成された部分に対しての、中間部としての、緩徐楽章(或いは、纏まった完成されたmelodie部)から、後半部の「急」では、ゆっくりとしたthemaが最後まで、徐々にtempo upして行き、非常に速いtempoで、華やかに終わります。

4部構成の場合には、導入のintroduction部のfragment部は同じなのですが、次に第二部として、静かな緩徐楽章が来ます。第三部は完成されたmelodieが演奏されて、一度切断されて、第四部に入ると、ゆっくりとしたthemaから徐々にtempo-upして行き、最後は華やかに終わります。

これは単純な教科書変奏曲と、基本的には同じ構造式であり、三部構成が四部に拡大されたに過ぎません。
しかし、この形式で、過去の名作であるHungarian Rhapsodyの構造式の説明が出来ます。
Franz LisztのHungarian RhapsodyやDavid PopperのHungarian Rhapsody、或いは、Maurice RavelのTzigane等も同じ構造なのです。

しかもこの構造式が、Arcangelo Corelliのla foliaや、Johann PachelbelのChaconneの構造式と同じなのです。
つまり、舞曲の形式としての構造式なのです。

themaが提示されたら、Variation部が始まります。第一部は、ほぼthemaと同じtempoから始まり、徐々にtempo‐upして行きます。そのtempo‐upが頂点に達したら、第一部と突然終わって、非常にゆっくりとした第二部が始まります。
第二部は、短い場合には、ではゆっくりとした楽章だけで終わりますが、大きな曲の場合には、ゆっくりとした楽章と速い楽章がcontrastとして、互い違いに演奏されます。第三部は、第一部と同様にゆっくりとしたVariationから徐々に速くなって、climaxを迎えます。短いkadenzを演奏して終わります。
これは、基本的なSymmetry構造です。thema+A+B+Aという構造です。

purcellのChaconneについてのお話(発表会のprogramより)


Johann PachelbelのChaconne(付録:芦塚先生のPipeorganのお話)


la folia

Hennry PurcellのTrioSonateによるChaconne g の改定にあたって


通奏低音とornamentのお話

VitaliのChaconneのお話


Greensleeves to a ground in C Dorisch